| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-405  (Poster presentation)

北海道北部の天然林集水域における異なる森林施業が窒素流出に及ぼす影響
Effects of different forest harvesting management on nitrogen runoff in natural forested watershed in northern Hokkaido

*福澤加里部, 佐藤冬樹, 柴田英昭, 野村睦(北海道大学)
*Karibu FUKUZAWA, Fuyuki Satoh, Hideaki Shibata, Mutsumi Nomura(Hokkaido Uiversity)

森林林床に密生するササは、稚樹の更新や成長を阻害することから、北海道北部においてはササを表土ごと除去する「掻き起こし」や、一度除去した養分が豊富な表土を再び敷き戻す「表土戻し」などの施業方法が検討されてきた。本研究は、冷温帯林の代表的な林床植生であるササが密生する天然林において、集水域ごとに異なる森林施業を行い、その前後での河川水質を測定、比較することにより、森林施業が窒素流出に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。特に生物に必須の元素である窒素は、森林伐採により無機態窒素の生成・消費のバランスが崩れ、主に硝酸態として河川へ流出することが知られるが、ササの存在は森林伐採の影響を緩和する一方、ササの除去は窒素溶脱を引き起こすだろうと予想した。
集水域ごとに異なる森林施業:皆伐、掻き起こし、表土戻し、および対照区を行い、2003-2015年の期間の各処理前後において各集水域の出口にて定期的に河川水を採取した。ろ過後に硝酸イオン、アンモニウムイオン濃度を分析した。硝酸イオンの年間平均濃度の対照区に対する各処理区の比率(処理区比)を求めたところ、皆伐区では、処理後には0.9-1.2の範囲で変動し、硝酸イオン濃度は対照区との間に有意な差はみられなかった。掻き起こし区では、処理から5年後の2011年に2.3にまで上昇した。表土戻し区では表土戻し処理直後から濃度が上昇し、処理から2年後の2011年に処理区比は4.9にまで上昇した。両処理後には処理前の濃度レベルには戻らなかった。以上から、皆伐後に河川水の硝酸濃度上昇がみられないこと、表土戻し、掻き起こしの順で硝酸濃度に影響を及ぼすことが明らかになった。樹木伐採後も残存するササが伐採により増加した無機窒素を十分に保持するが、ササの除去は無機窒素の溶脱を引き起こし、さらに養分が豊富な表土の添加は窒素溶脱を急激に加速させることが示された。


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