| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-417  (Poster presentation)

温暖化環境下における全球気候モデル出力値を用いた栄養塩循環機構の予測
Prediction of nutrient circulation mechanism under global warming condition using General Circulation Models output

*丸谷靖幸(岐阜大流域圏センター)
*Yasuyuki MARUYA(Gifu University)

近年,世界中において,温暖化や降水パターンの変化といった気候変動が問題となっており,豪雨に伴う河川氾濫などの被害が頻繁に生じている.気候変動による影響は自然災害だけにはとどまらず,例えば北海道知床の面するオホーツク海では,流氷の輸送量の減少や接岸期間の短縮が指摘されており,それらに起因して海域から陸域への栄養の還元量の低下が懸念されている.知床半島では生物多様性に加え,沿岸・海洋生態系と陸上生態系の栄養塩循環が生態系を保持しているという特徴が認められ,世界自然遺産に登録されている.そのため,気候変動による影響が今後も続いた場合,陸域と海域の栄養循環が崩壊し,最悪のシナリオとして世界自然遺産から除外されてしまう可能性が考えられる.そのため,現在の栄養塩循環機構を踏まえ,気候変動(温暖化環境)下における栄養塩循環機構を予測し,海域からの栄養還元量を推定することは,現在の知床半島の生態系ならびに環境を保全する上で重要となる.
そこで本研究では,知床半島で最大の流域面積を持つラウス川流域を対象とし,生態系の栄養として利用される窒素に着目し,現在における陸域と海域の栄養塩循環機構(Nakayama et al. (2018))を基に,現在の陸域と海域の栄養塩循環のバランスが成り立つために必要な温暖化環境下における海域からの栄養還元量を考察することを目的とした.なお,温暖化環境下における気候値としては,バイアス補正が適用された全球気候モデルによる出力値を利用した.
その結果,温暖化環境下における陸域からの窒素流出量は,現在と比較して約1.2〜2.4倍となる可能性が示唆された.また,現在の陸域と海域の栄養塩循環のバランスが成り立つには,現在の約1.2〜2.0倍の栄養塩が還元される必要があることが予測された.これをサケおよびマスの遡上数に換算した場合,約2万〜9万匹の増加に匹敵することが推定された.


日本生態学会