| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-427  (Poster presentation)

茂原第一トンネルにおける哺乳類の利用とホンドタヌキの横断
The use of mammals and crossing of Raccoon dog in the Mobara First Tunnel

*麻生海斗(明治大学大学院), 倉本宣(明治大学)
*Kaito ASO(Meiji Univ. Grad. Sch.), Noboru Kuramoto(Meiji Univ.)

道路は人間社会においては経済発展に重要なネットワークである。しかし道路が建設されることで,そこに存在している生態系には負の影響を及ばす。
 近年,エコロードと呼ばれる,道路の生態系への影響に配慮した道路づくりが行われている。エコロードは自然環境保全のため様々な試みがなされるが,中でも動物の移動路として道路横断施設の建設が行われている。道路横断施設の研究には野生動物の利用に着眼したものが多く,遺伝的交流について調べられたものは少ない。
 本研究では,上部がオーバーパスとして建設された茂原第一トンネルにおいて,哺乳類による茂原第一トンネルの利用から遺伝的交流までを調査し,オーバーパス,特に茂原第一トンネルの分断された生息地間をつなぐ機能や遺伝的に見た周辺個体群の実態を明らかにすることを目的とする。
 2016年2月から2018年11月までセンサーカメラを用いて茂原第一トンネルを利用している哺乳類の調査を行った。その結果、茂原第一トンネルの哺乳類の利用は年々増加するものや減少する哺乳類の存在が確認された。また茂原第一トンネルの周辺で確認された動物種はキョン(Muntiacus reevesi)を除き,茂原第一トンネルの利用種と一致していた。
 タヌキ(Nyctereutes procyonoides viverrinus)についてDNA分析を行い,緑地間の横断と遺伝的多様性や遺伝的分化について調べた。その結果,23個体を識別し,そのうち2個体が道路により分断された生息地間で確認された。また現在のところ遺伝的多様性の危機や遺伝的分化も確認されなかった。このことから茂原第一トンネルは遺伝的な側面からも生息地分断を防いでいることが示唆された。
 今回の調査より,茂原第一トンネルは道路により分断された生息地間をつなぐ機能があり,タヌキの遺伝的多様性の減少や遺伝的分化を防いでいることが示唆された。今後は茂原第一トンネルの植生を適切に管理し多様な環境を作り出すことでさらなる動物の利用が期待できる。


日本生態学会