| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-34  (Poster presentation)

遺伝子マーカーを用いた淡水魚に寄生する吸虫の生活環の解明
Research of life cycle of trematoda of freshwater fish with gene marker

*板谷穂香, 藤本暖, 鈴木大登, 眞下篤(白陵高等学校)
*Honoka Itatani, Hinata Fujimoto, Taito Suzuki, Atsushi Mashimo(Hakuryo high school)

 扁形動物門吸虫綱に属する動物は、魚類等の脊椎動物の消化器に寄生する。成熟した吸虫類は、脊椎動物の体内で産卵し、卵は宿主の排泄物と共に体外に放出される。水中に放たれた卵はふ化し、貝類を中心とする軟体動物の体内に入り込む。その後、宿主間の遊泳による移動や食物連鎖を通して、脊椎動物の腸管に戻る。このように、吸虫類は一生を通して周辺の生態系にいる多くの動物を経由するため、吸虫類の生活環の解明は生態系の把握に繋がると考えている。
 しかし現在、吸虫類の生活環は殆ど解明されていない。理由としては、寄生虫は形態による分類が主流であり、種同定に専門的な知識や技術が必要となるからである。また、吸虫類はその成長過程で変態をし、著しく形態を変えるため、従来の寄生虫分類では種の同定ができない。そこで本研究は、遺伝子マーカーを利用して閉鎖的環境に生息する淡水魚の吸虫類の幼生の捜索を行った。
 2018年1月から、姫路市を流れる夢前川と支流の明神川で淡水魚とカワニナ類を採集し始め、3魚種から3種の吸虫を、カワニナから寄生虫を18個体得た。カワニナの吸虫について2つの領域で塩基配列を解析した結果、7種類の吸虫類の幼生が寄生していたことが分かった。そのうち、夢前川のカワニナ類のみに寄生する1種の塩基配列が、同所のカワヨシノボリに寄生する吸虫の塩基配列と一致した。この吸虫は、塩基配列のデータベースからゴッポ吸虫と最も近縁であると分かった。
 分子生物学的な解析からでは、カワヨシノボリを終宿主とする吸虫は、同所的に生息するカワニナを第一中間宿主としている可能性が高い。今後は、カワヨシノボリの吸虫の形態学的種同定を行い、甲殻類であるとされる第二中間宿主を捜索することで、この吸虫の生活環の解明へ繋げていきたい。


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