| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム S04-3  (Presentation in Symposium)

行政政策としての世界遺産とユネスコエコパークの違い
The difference between World Heritage and Biosphere Reserves in Environmental policy in Japan

*岡野隆宏(環境省)
*Takahiro Okano(Ministry of the Environment)

生物圏保存地域は1980年に4地域が登録され、日本に導入された。当初の目的である保護と調査研究は行われてきたが、その存在は一般にはほとんど知られることはなかった。その後、国際的な環境問題に対する議論に即して概念が変遷し、機能の一つに「持続可能な発展」が加わりゾーニングも変更されたが、国内では特段の対応が行われることなく30年近く放置されてきた。
世界遺産については、1993年に屋久島と白神山地が世界遺産一覧表に記載されて導入される。当初より国民の関心が高く2003年には環境省と林野庁により「世界自然遺産候補地に関する検討会」が設置され、学術的見地から新たな推薦候補地が検討された。この結果に基づき、「知床」、「小笠原諸島」、「琉球諸島(当時)」の記載に向けた取組が進められていく。2005年に記載された知床では、地域連絡会議と地域科学委員会の設置による合意形成と科学的に知見に基づく管理運営が行われ、その後の世界遺産や国立公園のモデルとされた。また、推薦に向けて新規の国立公園指定や区域拡張が相次ぎ、日本の国立公園政策をけん引している。
一方、生物圏保存地域の再活用が明確にされたのは2012年に閣議決定された生物多様性国家戦略2012-2020においてである。2010年のCOP10の成果と2012年の綾の登録を踏まえ、「人間と自然との共生に関するモデルとして提示する取組を推進する」とされた。その後、新たに4地域が登録され、当初の4地域も見直しと拡張が行われた。基礎自治体が中心となり、住民団体や産業団体も加わった協議会等が設置され、地域の社会経済の持続性をも目的に、価値創造のための協働が進められている。
2018年4月に閣議決定された第五次環境基本計画では、環境・経済・社会の統合的に向上を目指し、地域資源に焦点を当てた「地域循環共生圏」の概念が打ち出された。この概念はユネスコエコパークにも通底するものであり、連携の可能性を議論したい。


日本生態学会