| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム S05-1  (Presentation in Symposium)

警告(色)的現象を社会学習で説明する
Social learning process can explain paradox in aposematism

*持田浩治(慶應義塾大学)
*Koji Mochida(Keio University)

本講演は、まず、シンポジウムのメインテーマである社会学習の概要やその研究の歴史、学習特性について簡単に紹介する。次に、私達が近年取り組んできた社会学習を学習モデルとした警告色研究について紹介する。
 自身の不味さや危険さを捕食者に警告するために目立つ体色(警告色)をもつ動物は、捕食者に以前経験した餌と同じように自分が不味いもの、危険なものであることを認識させる必要がある。なぜなら捕食者は、以前経験した餌の体色を手がかりに不味さや危険さを学習し、類似した餌への攻撃を回避するからである。しかし、この警告的現象を説明する個体学習(試行錯誤)モデルは、以下の問題が指摘されている。警告色をもつ個体が隠蔽的な体色をもった種から出現する創出段階において、目立ちやすい少数派の警告的個体は、捕食者による学習が成立する前に死に絶えてしまう。また警告的動物が、致死性の毒などをもつ場合、捕食者は試行錯誤する学習機会をもてない。しかし、他者の行動をモデルとする社会学習によって警告的学習が成立するのであれば、上記の問題は解消されるかもしれない。なぜなら、社会学習は集団内の行動伝播速度がはやく、また、餌の毒によりモデルが死んでも、それを観察した個体は、類似した餌を回避することを学習する可能性があるからである。そこで社会学習による警告的学習の成立の可否を、飼育ニホンザルと人工的に作成した警告的ヘビ人形を対象に、ウィスコンシン型汎用テスト装置を用いて検証した。それらの結果、被験個体は、警告的ヘビ人形を警戒する他個体(モデル)を観察することで、直接的な経験なしに、同様の配色のヘビ人形を忌避・回避するようになることが明らかになった。本講演では、これらの実験過程で明らかにされた、警告色回避行動の社会学習における強化と般化特性についても報告する。


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