| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム S06-10  (Presentation in Symposium)

脊椎骨椎体による移動履歴復元法の展望と課題
Perspectives and issues on the reconstruction of behabial history based on vertebral centra

*鎌内宏光(総合地球環境学研究所)
*Hiromitsu Kamauchi(Res. Inst. Humanity and Nature)

生物の移動は、移動自体の進化的/生理生態学的背景や、移動先での群集や生態系の改変効果などが基礎と応用の両面で研究されてきた。蓄積成長する器官の成分のうち、環境中で時空間的に不均一な元素や同位体の含量を対象個体の成長に沿った時系列で分析して、個体の移動や経験した環境の履歴を再構築する手法は、硬骨魚類の耳石における淡水/海水移動の復元や、化石を含めた様々な生物由来炭酸塩鉱物や樹木のセルロースの酸素同位体を使った古環境の復元など、様々な先行研究がある。最近、硬骨魚類の脊椎骨の椎体が成長時の様々な元素を保存することが明らかになった。例えば遡河回遊魚では、耳石と同様にストロンチウムやイオウ同位体比が成長に沿って淡水の値から海水の値に変化する。また、椎体に含まれるコラーゲンが無機元素と同様に成長時の餌内容を反映する。椎体は耳石に比べて個体あたりの含量が大きいので多量の試料量が必要な分析が可能であり、また有機物を含むので炭素と窒素の同位体を分析可能であるという利点がある。特に海洋では生物生産は一般に窒素律速なので、沿岸域では陸域由来の窒素が水塊の流動と低次生産への取り込みを経て硬骨魚類に到達すると予想されるので、安定同位体比の異なる窒素が沿岸に供給される場合には、近傍の海域であても異なる窒素同化経路が構築される可能性が考えられる。今後は、外洋域表層に比べて遅れている沿岸や深層での水塊の流動を踏まえた低次生産のリアルタイム観測やシミュレーションの整備や、更なる飼育実験によるアミノ酸代謝を含めたコラーゲン等の有機物の蓄積過程とその生理的背景を明らかにすることで、椎体による個体の移動履歴をより詳細に理解することが可能になる。


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