| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム S17-5  (Presentation in Symposium)

湿地調査における環境DNAの活用と課題
Application and challenges of environmental DNA for surveys in wetland

*今藤夏子(国環研・生物), 平野佑奈(東邦大・理), 木寺法子(岡山理科大・生物地球), 深谷肇一(国環研・生物), 角谷拓(国環研・生物), 松﨑慎一郎(国環研・生物)
*Natsuko Kondo(NIES), Yuna Hirano(Toho Univ.), Noriko Kidera(Okayama Univ. Sci.), Keiichi Fukaya(NIES), Taku Kadoya(NIES), Shin-ichiro Matsuzaki(NIES)

環境DNAは、水や土壌などの環境試料から抽出したDNAで、近年、生物の分布を把握するための手がかりとして、様々な環境や生物を対象に広く利用されつつある。環境DNAによる生物調査は、調査地における作業の簡便さと検出感度の高さから、従来の捕獲や目視による調査を補完するものとして期待されている。しかし一方で、試料の採集や保管、室内実験などの各工程において生じ得る手法の違いによるバイアスや、擬陽性・偽陰性の取り扱いなど、解決すべき技術的な問題も多く残されている。
 千葉県の北総地域は、印旛沼の水源となる水系と数多くの谷津湿地が点在しており、様々な希少生物が生息している。我々は、これらの水源を利用している代表的な希少生物であるスナヤツメ(Lethenteron sp. N)について、環境DNAを利用した調査方法の検討や、その有効性の検証を行っている。はじめに、リアルタイムPCRによる検出系を用いて野外での検証を行った。ネットに入れたスナヤツメを、生息が確認されていない河川に係留し、その下流で採水した環境DNAを調べたところ、ネットからの距離と検出頻度の間に明確な関係性は見られず、環境DNAはスナヤツメの分布調査に適していない可能性が示唆された。次に、谷津湿地のように水試料が懸濁物を多く含む場合のDNAの捕捉と分解の影響について検討を行った。既往研究では、水試料中の魚類の環境DNAの分解は、ベンザルコニウム塩化物水溶液によって抑制されることがリアルタイムPCRを使った検出系で報告されている。本研究では、魚類のメタバーコーディングにおけるベンザルコニウム塩化物水溶液の影響を検証した結果について報告する。これらの結果を踏まえ、湿地における環境DNAを活用した生物分布調査の課題として、塩基配列データベースを充実させる必要性等について議論する。


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