| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム S17-7  (Presentation in Symposium)

グリーンインフラとしての谷津奥部の湧水湿地
Ecosystem function of spring-fed wetland in Yatsu, small valley

*西廣淳(東邦大・理・生物), KimJi Yoon(東邦大・理・生物), 加藤大輝(東邦大・理・生物), 大槻順朗(土木研究所), 高津文人(国立環境研究所)
*Jun Nishihiro(Toho Univ.), Ji Yoon Kim(Toho Univ.), Hiroki Kato(Toho Univ.), Kazuaki Otsuki(PWRI), Ayato Kohzu(NIES)

食料生産・採取・居住空間の複合体である「里山」では、ヒトの活用・管理により、台地・斜面・湿地・河川などの場が、生産・採取・居住以外の機能を含む多様な機能を発揮してきた。しかし、戦後の宅地開発・農地改良・河川改修の結果、少数の機能は顕著に向上した一方で、地下水涵養・水質浄化・生物多様性や風景の維持など、意識されにくい機能が低下した。また気候変動の進行に伴い、想定を超える災害のリスクが高まった。

かつて里山として利用されてきた空間は、適切に保全・整備することで、地域の魅力やレジリエンスの向上に寄与する多機能な社会基盤(=グリーンインフラ)として、現代・未来に活用できる可能性がある。本講演では特に「谷津奥部の湧水湿地」の機能評価と活用に向けた研究と取り組みを紹介する。

千葉県北部から茨城県南部にかけての地域には、洪積台地の辺縁に小規模な谷が刻まれた「谷津」という地形が広く発達する。谷津の最奥部ではたいてい湧水が生じ、かつてはそれを利用する水田耕作が谷底面で行われてきた。またサワガニやスナヤツメなど、湧水に強く依存した生物の重要なハビタットでもあった。谷津の水田=谷津田は、湖沼や大河川の氾濫原の水田と比べて洪水や渇水のリスクが低く、かつては稲作の中心地であった。しかし1960年代ごろからの圃場整備事業の進行に伴い、稲作の中心は氾濫原に移り、谷津田の多くでは耕作が放棄された。また、埋め立てられた谷津も多い。

私たちの研究チームは、1)谷津の土地利用・土地被覆の歴史的変遷、2)谷津地形が持つ治水機能、3)谷津を湿地化することによる水質浄化機能、4)生物多様性保全機能、5)谷津を湿地化し定期的に耕起することによる農地維持機能について評価し、谷津がもつグリーンインフラとしての価値を明らかにした。さらに、多様な機能を高める「放棄水田の湿地化」を、農業者や行政との連携により展開しつつある。


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