| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


自由集会 W10-2  (Workshop)

海浜の縮小が希少植物種の存続に及ぼす影響-イソスミレを例に
Effects of reduction of coastal dunes on the persistence of rare plant  species: a case study of Viola grayi

*黒田有寿茂(兵庫県立大学)
*Asumo Kuroda(University of Hyogo)

絶滅危惧海浜植物であるイソスミレについて,海浜の縮小が本種の存続に及ぼす影響を評価し,その保全の必要性や可能性について検討するために,(1)分布・生育立地特性に関する調査,(2)種子の休眠・発芽・散布特性に関する試験を行った.(1)に関し,まず山陰海岸東部一帯の砂質海岸を調査地とし,本種を含めた植物相の調査を行った.その結果,本種の生育する砂質海岸は他の絶滅危惧海浜植物と同様数箇所と少なく,その出現は砂質海岸の面積と正の相関をもつことが示された.次に日本各地の分布地において汀線-内陸方向にベルトトランセクトを設置し,植生調査を行ったところ,本種は草本帯の後部から矮低木帯にかけてのやや狭いエリアをハビタットとしていることが示された.以上の結果から,本種の生育可能なハビタットは砂質海岸の中でも限定的であり,開発などに伴う海浜の縮小は潜在的なハビタットを減少させ,その存続に大きな負の影響を及ぼすと考えられた.続いて(2)に関し,山陰海岸東部の砂質海岸で本種のフェノロジーを観察するとともに,当地で採集した種子を用い,まず温度・光条件に対する基本的な休眠・発芽特性を明らかにした.その後,NaCl水溶液を用いて浮遊能力と接触後の発芽能力を調べたところ,本種の種子はNaCl水溶液への1ヶ月の接触後も発芽能力を失わないものの浮遊能力はごく低く,海流散布能力は低いことが示唆された.また,砂質海岸における埋土処理後の発芽試験から,本種の種子は砂中深く埋もれた場合には発芽せず,少なくとも2年間以上発芽能力を維持することが確認され,攪乱後の堆砂に伴い埋土種子集団を形成する可能性のあることが示唆された.これらのことから,本種の保全には既存の分布地ならびに生育環境を維持していくことが重要な意味をもつと考えられた.


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