| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


自由集会 W15-4  (Workshop)

絶滅危惧種利用の順応的プロセスデザイン
Adaptive process design for endangered species utilization

*菊地直樹(金沢大学)
*Naoki Kikuchi(Kanazawa Univ.)

絶滅危惧種を持続的に利用するためには、利用することが保全・再生への投資につながり、保全・再生することが資源の付加価値化をもたらすという循環を創ることが重要である。この循環を創るためには、科学と社会の不確実性を前提とした多くの関係者の協働と合意形成が欠かせない。本報告では、「不確実性のなかで価値や制度、手法、担い手、目標を柔軟に変化させながら試行錯誤していく、多様な関係者による協働のプロセス」という「順応的プロセス」の視点から、野生復帰プロジェクトが進められている兵庫県のコウノトリと北海道のシマフクロウを事例として取り上げ、絶滅危惧種利用のあり方を考えてみたい。
 順応的プロセスの要件として、①試行錯誤とダイナミズムの保証(問題解決の進め方)、②価値基準の多元化、③物語化による社会的仕組みの構築(問題解決の手段)を指摘したい。例えば、野生復帰にともなって開発されてきたコウノトリ育む農法という環境創造型農法では、①農家、行政、研究者、NPO による試行錯誤による農法の開発、②水田の中の生き物の様子を農家自身が観察することで中干しの時期を判断する主体性といった価値基準の多元化、③コウノトリが生息する環境を創るのは農家という物語を軸にした認証制度がみられる。これらの要件によって順応的プロセスが動き、利用と保全の循環が創られている。
 順応的プロセスを動かすためには、地域住民、観光関係者、農家、研究者、行政といった異なる価値を持つ人びとのコミュニケーションを促進し、価値の多様性と課題認識を深めることが課題となる。報告者が開発している「環境活動の「見える化」ツール」を紹介し、順応的プロセスデザインについて提案する。


日本生態学会