| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


自由集会 W18-2  (Workshop)

ウツボカズラの襟の水流コントロール
Control of water transport on peristome of pitcher plants

*町田悟, 市毛敬介, 植田忠伸, 田中秀典, 山田登, 太田理一郎, 細川洋一, 中野充(豊田中央研究所(株))
*Satoru Machida, Keisuke Ichige, Tadanobu Ueda, Hidenori Tanaka, Noboru Yamada, Riichiro Ota, Yoichi Hosokawa, Mitsuru Nakano(TOYOTA CRDL, INC.)

食虫植物ウツボカズラ(Nepenthes)の捕虫葉襟部は水の濡れ性が高く、蜜により誘引された虫を捕虫葉内部に滑落させる事が知られている。この襟部には、微小溝と庇状突起からなるミクロ流路が存在する。この流路の端部に微少水量(約1μL)を付着させると、捕虫葉内部から外部に向かう水流は滑らかに進むのに対し、逆方向では庇状突起に塞き止められながら進む事が分かった。この特異な水流異方性は、鋭角な微小突起表面において液滴が停止する「ピン止め効果」に由来すると推定した。ピン止め効果を実スケールモデルで再現する為、シリコン微細加工技術により庇状突起を模擬した人工流路を作製した。結果、捕虫葉外部から内部を想定した方向ではピン止め効果が生じ、庇状突起部で水流が停止した。ウツボカズラ襟部のミクロ流路には、微少水量時に捕虫葉内部へ向かう水流のみを阻止する機構が備わっている事が示唆された。またウツボカズラ11種のミクロ流路形状を比較した結果、微小溝の幅や庇状突起は生息環境(高温多湿・低温乾燥・冷涼多湿)や生体サイズに依らずほぼ共通である事が分かった。ウツボカズラ襟部に備わる水流異方性は、捕虫機能を維持する上で重要な機構の可能性がある。


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