| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


自由集会 W24-1  (Workshop)

北海道東部の森林における根滲出物の放出
Root exudatates from forest plants in East Hokkaido

*中山理智(京都大学・農学研究科), 舘野隆之輔(京都大学・FSERC)
*Masataka Nakayama(Kyoto Univ. Agriculture), Ryunosuke Tateno(Kyoto Univ. FSERC)

植物は根から根滲出物と呼ばれる様々な化合物を根の周囲の土壌である根圏土壌へと放出している。根滲出物は糖やアミノ酸、有機酸、フェノールなどの低分子量の一次および二次代謝物や多糖類や酵素などの高分子量の有機化合物にしばしば分類される。根滲出物は根圏に生育する微生物の炭素源となり根圏における微生物の量や活性を高めることで有機物の分解を促進したり、有機酸によるpHの低下やファイトシデロフォアなどによって不溶性の養分を可溶化したりすることで植物の成長に必要な養分の移動や吸収に関与する。また、根滲出物に含まれる様々な化合物は共生関係のシグナル物質として働いたり、他の植物に対するアレロパシー物質として機能したりすることが報告されている。さらに、抗菌作用を示す化合物も含まれ、根における病原菌からの防御においても重要である。根滲出物として放出される化合物に含まれる炭素は光合成で獲得した炭素の5~20%程度であり、植物にとっては大きな負担であるが、養分吸収の促進や他の植物や病原性微生物の成長抑制、共存微生物との関係性の構築など、植物の生存や成長に重要な機能を担っており欠かすことができない。根滲出物の量や化合物の組成には種の違いや他の植物の存在、光や水などの環境条件が影響することが作物や草本種、樹木の実生などの研究から明らかとなっているが、森林生態系、特に成木での研究は未だ知見が限られている。森林生態系は炭素の貯留や多様性の保持などの機能が期待されるが、根滲出物は樹木の生存や成長のみならず森林生態系の機能にも影響するため、成木の根滲出物についての理解が不可欠である。本発表では根滲出物について概説し、近年開発された森林における成木に対するin situでの根滲出物の採取法を紹介する。また現在その手法を用いて北海道東部の森林において進めているミズナラ成木と下層植生であるミヤコザサの根滲出物の研究の結果を報告する。


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