| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


第12回 日本生態学会大島賞/The 12th Oshima Award

九州・天草の砂質干潟ベントス群集の長期変化 ―底生・浮遊過程がどのように複合して働いてきたか
Long-term change in benthic community on an intertidal sandflat in Amakusa, Kyushu ―how the complex of benthic and planktonic processes has operated

玉置 昭夫(長崎大学 水産・環境科学総合研究科)
Akio Tamaki(Graduate School of Fisheries and Environmental Sciences, Nagasaki University)

私は天草下島の北西端にある富岡湾干潟のベントス群集の変化を1979年から調べてきた。1984年までに十脚甲殻類(ハルマン)スナモグリの分布域と密度が大きく増えた。本種は地下深い巣穴に棲み、造巣・摂餌活動によって干潟表層の砂を流動化する。これに耐えられない懸濁物食巻貝や棲管形成種が絶滅・凋落した。特に表在性巻貝イボキサゴ(平均密度2,500個体/m2)は多くの捕食者を支える群集の鍵種であった。本種幼生は卵栄養型発生し、数日間、浮遊する。幼生輸送過程・稚貝生残率の検討により、富岡干潟個体群は天草下島の東海岸(有明海内)からの幼生移入に頼るsinkと推定された。有明海の南西隅の干潟には最大のsource候補個体群がある。富岡干潟由来の幼生の半数は外海(天草灘)と有明海の間にある強い潮流で富岡湾外に運ばれ、干潟個体群の自己維持ができなくなっている。有明海南西隅は潮流が弱く、短期浮遊幼生の保持に適している。一方、富岡干潟のスナモグリは最大の局所個体群を成す。周辺の海洋構造は、本干潟では高密度で自己維持を、有明海の干潟では低密度をもたらしている可能性が高い。富岡干潟由来の幼生は天草灘の平均水深40 mで1ヶ月間過ごす。ここで植物プランクトンとそのデトリタスを専食している可能性が高いことが、飼育実験とバルク・アミノ酸安定同位体比解析で示された。1989~2012年を通して、スナモグリ新規加入密度と梅雨期の有明海への流入河川水量・水柱栄養塩濃度・chl a濃度との間には正の相関が見出された。1970年代の有明海のchl a濃度は現在の3~4倍と推定された。富岡干潟ではアカエイ高密度群が1995年から訪れ始め、スナモグリを食べている。スナモグリ密度減少に伴い、イボキサゴが1998年から復活した。その幼生供給源は天草下島の東海岸の個体群であり、メタ群集動態でのmass effectが示された。その後、富岡スナモグリ個体群は消長を繰り返し、密度が160個体/m2を超すごとにイボキサゴが絶滅した。この閾値は全稚貝を巣穴に捕捉する密度である可能性が示唆された。富岡干潟群集の長期変化は、強力基質攪拌力をもつ優占種が特有の生活型をもつ他種の幼稚体・成体の生残に及ぼす作用、ボトムアップ影響、トップダウン影響、優占各2種の局所個体群間の連結性、少数の外部攪乱の偶発的生起により駆動されてきたと考える。


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