| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) C02-09  (Oral presentation)

ブナを寄主とするEctoedemia属(チョウ目モグリチビガ科)の多様性と潜葉習性
Biodiversity and mining behavior of Fagus-feeding Ectoedemia (Lepidoptera: Nepticulidae)

*屋宜禎央, 広渡俊哉(九大院・昆虫)
*Sadahisa YAGI, Toshiya HIROWATARI(Entomol. Lab., Kyushu Univ.)

モグリチビガ科Nepticulidaeは,チョウ目最小の種を含む開張2.5 ~6.5 mmの潜葉性小蛾類の一群である.本科のEcotedemia属は旧北区において多様化し,その中でもブナ属を寄主とする種は日本のみに生息することが知られており,ブナFagus crenataから同所的に線状,腸状,斑状といった多様な形状の潜孔を形成するものが確認されている.
 そこで,このような潜孔を形成するブナ食者が,①単一種か複数種か,②本属内のどの系統に位置するかを明らかにすることを目的として,形態の観察と分子系統解析によって得られた結果から考察を行なった.
 その結果,ブナを寄主とするEctoedemiaは互いに近縁な5系統に分かれることが明らかとなった.この5系統は雌雄交尾器による識別が可能であったため,それぞれ独立した種であることが示唆された.系統解析の結果から,ブナ食者はクルミ科を利用するE. philipiに近縁であることが示唆された.また,ブナ食者とE. philipiで構成されるクレードはブナ科コナラ属Quercusを利用するsubbimaculella種群と姉妹群を形成した.また,本属を概観すると,ブナやキイチゴ属食者のように寄主をほとんど変えずに種分化した場合,潜孔の形状は近縁種間で大きく異なるのに対し,バラ属やクルミ属食者のように寄主転換や地理的隔離によって分化し,その後同所的に分布したと考えられる場合は,潜孔の形状が大きく変わらない傾向があった.このことから,潜孔の形状の多様化は種分化に関わる重要な要因の1つであることが示唆された.
 さらに,2018年に20℃で飼育した各種の羽化時期を比較してみたところ,同所的に同じ(近縁な)植物を利用する複数種は羽化時期に差異が確認された.このことから,本グループの種分化には時間的な隔離も関わっていることが示唆された.


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