| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) E01-04  (Oral presentation)

侵略的外来種アライグマの遺伝的多様性
Genetic diversity of the invasive alien species raccoon

*廣瀬未来, 井上英治, 長谷川雅美(東邦大学)
*Miki HIROSE, EIJI INOUE, MASAMI HASEGAWA(Toho Univ.)

 遺伝的多様性の維持は、個体群の存続可能性を担保する重要な要素であると言われている。外来生物は、創始者効果や遺伝的浮動によって、遺伝的多様性の小さな集団から始まることが多いが、侵入・定着後に個体数が爆発的に増加することもまれではない。しかし、侵入から分布拡大の過程で遺伝的多様性がどのような動態を示したのか、定着の成功と遺伝的多様性の関係は明確ではない。そこで本研究では、集団遺伝学的手法を用いて日本に侵入したアライグマの遺伝的多様性を原産地域やヨーロッパの個体群と比較した。
 千葉県全域から集められた179個体から組織を採取し、ミトコンドリアDNAのD-loop領域と核DNAのマイクロサテライト24領域を用いて遺伝構造、遺伝的多様性の解析を行った。その結果、ミトコンドリアDNAに5つのハプロタイプが見つかり、核DNAの解析によって3つの遺伝的集団が認識された。千葉県内のアライグマを地域集団ごとに見ても有効対立遺伝子数は多く、ヘテロ接合度の値も高かった。千葉県に定着・増加したアライグマの遺伝的多様性は、スペインよりも高く、ドイツ全土とは同程度、さらに核DNAも原産地域に匹敵する多様性の高さであった。
 千葉県の面積はドイツ全土のおよそ1/70でしかないが、少なくとも3回以上の侵入があり、その後広範囲にわたる遺伝的交流が生じたと推察されている。その結果、千葉県内各地域に拡散したアライグマの核DNAの多様性は原産地域と同程度に高く、遺伝的にも脆弱ではない個体群が形成されたと考えられる。日本全国ではさらに多くのミトコンドリアDNAのハプロタイプが報告されていることから、ペットブーム後の逃亡や遺棄によって日本では侵入の初期から遺伝的多様性の高い個体群が形成されていたと推察される。


日本生態学会