| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-02  (Oral presentation)

伝統知・地域知が生物多様性地域戦略に活用される要因−地域の自然か人材か?
When are traditional and local knowledges used in the Local Biodiversity Strategies and Action Plans in Japan: nature or human resources?

*小川みふゆ(東京大学), 今井葉子(茨城大学), 曽我昌史(東京大学), 吉田丈人(地球研, 東京大学)
*Mifuyu OGAWA(Tokyo Univ.), Yoko IMAI(Ibaraki Univ.), Masashi SOGA(Tokyo Univ.), Takehito YOSHIDA(RIHN, Tokyo Univ.)

地域の生態系管理において、住民の知識体系や協働は参加型プロセスとして重要であると考えられている。なかでも、住民の知識体系の構成要素である伝統知・地域知は生態系管理に活用され、科学知を補完するものと考えられている。しかし、伝統知・地域知を活用した生態系管理の実態は全国的なスケールでは明らかになっていない。そこで、地域の生態系管理の取組みが記載された生物多様性地域戦略を対象にして、1)伝統知・地域知が地域の生態系管理にどの程度活用されているのか、2) どんな伝統知・地域知が活用されているか、3)伝統知・地域知の活用にはどんな要因が関係しているのか、について調査した。
 
解析には、2016年4月までに生物多様性地域戦略を策定した70市区町村の職員と策定委員会委員を対象としたアンケート調査結果、生物多様性地域戦略の記載内容、市区町村のウェブ公開情報、生物多様性地域戦略のレビュー(環境省2017)、日本全国標準土地利用メッシュデータ(国環研)、内閣府統計資料などを用いた。
 
アンケート調査の結果、多くの自治体で、伝統知・地域知を生物多様性地域戦略に活用する必要性が高く認識されているにもかかわらず、実際には活用できていないという回答が多かった。活用されている伝統知には、伝統的な作物の栽培や水田の形態などがあった。また、活用されている地域知には、モニタリングに基づいた里山やため池の管理、地域独自の農産物認証制度にのっとった農業などがあった。海岸を有する自治体では伝統知が活用されにくい傾向が見られ、農地面積が広い自治体では地域知が多く活用されている傾向があった。さらに、伝統知の認識については、策定員会委員の多様性が高いほど伝統知を重要と考えている傾向がみられた。以上の結果から、伝統知・地域知の活用には、地域の自然と人材の両方が影響していると考えられた。


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