| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-04  (Oral presentation)

生物多様性保全と気候変動緩和をどのように両立するか:種分布モデルを用いた全球解析
Simultaneous achievement of global goals on biodiversity and GHG mitigation

*大橋春香(森林総合研究所), 長谷川知子(立命館大学), 平田晶子(国立環境研究所), 藤森真一郎(京都大学), 高橋潔(国立環境研究所), 津山幾太郎(森林総合研究所), 中尾勝洋(森林総合研究所), 小南裕志(森林総合研究所), 田中信行(東京農業大学), 肱岡靖明(国立環境研究所), 松井哲哉(森林総合研究所)
*Haruka OHASHI(FFPRI), Tomoko HASEGAWA(Ritsumeikan Univ.), Akiko HIRATA(NIES), Shinichiro FUJIMORI(Kyoto Univ.), Kiyoshi TAKAHASHI(NIES), Ikutaro TSUYAMA(FFPRI), Katsuhiro NAKAO(FFPRI), Yuji KOMINAMI(FFPRI), Nobuyuki TANAKA(TUA), Yasuaki HIJIOKA(NIES), Tetsuya MATSUI(FFPRI)

 地球規模で人口増加や経済活動の拡大が進むなかで、生物多様性の損失防止や、生態系サービスの持続的利用は、国際的な課題になりつつある。将来、自然環境の保全・回復、持続的利用を地球規模で進めていくには、分野横断的な社会変革を促進することが求められるが、どのような社会を目指せば、生物多様性の損失を防ぎ、持続可能な社会を実現できるのか?という問いに答えるための科学的な知見は必ずしも十分ではない。
 本研究では、持続可能な社会の実現に向けた課題のうち、「温暖化対策」と「生物多様性保全」の両立可能性をシミュレーションにより分析した。これまで、温暖化対策により気候変動を抑制することは、生物多様性の損失を抑えるうえで重要であると考えられてきた。しかし、これまでの研究は温室効果ガスの大幅な削減に必要な新規植林の拡大やバイオ燃料用作物の栽培など、いわゆる温暖化対策による大規模な土地改変による負の影響を考慮していなかった。本研究では、5つの分類群(維管束植物・鳥類・哺乳類・両生類・爬虫類)に属する8,428種の種分布モデルを用いて、温暖化対策「あり」と「なし」のそれぞれの場合において、異なる社会経済状態(人口、GDP、エネルギー技術の進展度合い等)を想定した5つのシナリオのもとで、生物多様性損失の程度を比較・評価した。その結果、温暖化対策による大規模な土地改変による負の影響を考慮したとしても、温暖化対策を積極的に進めて2℃目標を達成することにより、地球規模の生物多様性の損失を抑えられることが明らかになった。さらに、5種類の社会経済シナリオのうち、持続可能な社会の構築に向けた取り組みを積極的に推進するシナリオ(持続可能シナリオ)で、生物多様性の損失が最も少ないことが示された。これは、持続可能シナリオで想定した強い土地利用規制等の取り組みが、高い生物多様性を保つ原生林などの自然環境の保全につながるためと考えられた。


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