| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-09  (Oral presentation)

河川への種苗放流によるボトムアップ効果:サクラマスの稚魚放流がイワナへ及ぼす影響
Bottom-up effect on white-spotted charr by stocked hatchery masu salmon fry

*長谷川功, 福井翔(北海道区水産研究所)
*Koh HASEGAWA, Sho FUKUI(Hokkaido Nat Fish Res Inst)

 自然環境下への種苗放流は、対象種の資源増殖や個体群保全のために用いられる常套手段である。ただし、放流は局所集中的に行われるため、競争や捕食-被食関係などの密度依存的な種間関係を通じて放流地点に生息する他種あるいは群集構造に影響を及ぼしかねない。サケ科魚類サクラマスは水産重要種であり、毎春、体長5cm弱の稚魚が河川に放流される。サクラマス稚魚は水生昆虫を多く捕食し、同種他種を問わず強い密度依存型競争を示す。また、大型の魚類などに捕食されることもある。つまり、放流されたサクラマス稚魚の影響は、栄養段階を問わず多岐に渡ると考えられる。このことを確かめるために野外調査を行った。
 調査は、2019年5月から9月にかけて北海道南西部を流れる尻別川水系で行った。5月下旬に放流が実施された地点に6箇所、非実施地点に3箇所の調査区を設け、それぞれで水生昆虫の採集、放流されたサクラマス稚魚および潜在的な競合種・捕食者であるサケ科イワナの胃内容物採集を行った。また、イワナには個体識別のための標識を付け、成長様式を把握するために体長の推移を追跡した。調査は放流前に1回、放流後に4回定期的に行った。
 一連の調査の結果、特にイワナの食性と成長様式について、放流実施地点と非実施地点間で顕著な違いが確認された。すなわち、放流実施地点では、放流前のイワナは水生・陸生昆虫を捕食していたのに対し、放流直後から6月中旬頃までサクラマス稚魚を多く捕食していた。放流非実施地点のイワナは調査期間を通じて水生・陸生昆虫を中心に捕食していた。また、調査期間中のイワナの成長率は放流実施地点の方が非実施地点よりも高かった。イワナとサクラマス稚魚では利用していた餌メニューの重複も見られたため、種間競争も生じてはいるものの、本研究ではサクラマス稚魚の被食を通じたイワナの成長への寄与が強く検出されたと考えられる。


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