| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-01  (Oral presentation)

プロジェクト「湿地の多面的価値評価軸の開発と情報基盤形成」の成果と今後
Monitoring and conservation of wetland ecosystems in Japan

*西廣淳(国立環境研究所)
*Jun NISHIHIRO(NIES)

環境研究総合推進費によるプロジェクトとして2017年度から2019年度まで実施してきた「湿地の多面的価値評価軸の開発と情報基盤形成」の成果の概要を報告する。
湿地がもたらす生態系サービスの重要性は、気候変動の進行に伴ってますます高まっている。それにもかかわらず、湿地の減少・消失と生物多様性の損失は世界的に進行している。日本においても多くの湿地がその状態が十分把握されないままに、不可逆な変化を遂げている。湿地の生物多様性の現状を効果的に把握するための手法や情報基盤を確立するとともに、生態系サービスの主要な評価軸を示すことを目的として、松崎慎一郎(国環研)、冨士田裕子(北大)、志賀隆(新潟大)をサブリーダー、西廣(東邦大・国環研)をリーダーとするプロジェクトを進めてきた。
北大のサブグループは、全国を対象にした湿地と湿地植生のデータベースを作成した。新潟大グループは、止水域における水生植物の標準的な調査手法を確立するとともに、同定のポイントなどを整理したガイドブックや、作成された植物リストを活用した湿地の評価に活用できるツールを開発した。またこれらのガイドブックやツールを日本国際湿地保全連合が管理するウェブサイト( http://wetlands.info/tools/ )で公開した。
国環研のサブグループは、霞ヶ浦流域を小流域に区分し、基盤、供給、調整、文化サービスにわたる多数の生態系サービスを評価し、相互のトレードオフ関係を分析した。その結果、水源域に溜池などの湿地がある小流域では農業生産と水質保全が両立しやすいことが示された。また東邦大のサブグループは、休耕田を生物多様性保全、治水、水質浄化など多様な機能をもつグリーンインフラとして活用する方策を実践的に示した。
講演では、プロジェクトの成果を踏まえ、今後の日本における湿地生態系のモニタリングやその評価のあり方について議論したい。


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