| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-02  (Oral presentation)

南アルプス北岳で実施されたライチョウ家族のケージ保護と捕食者駆除の成果
Results of in-situ conservation of Japanese rock ptarmigan at Mt. Kitadake.

*小林篤(東邦大学), 福田真(環境省), 中村浩志(中村国際鳥類研究所)
*Atsushi KOBAYASHI(Toho Univ.), Makoto FUKUDA(Ministry of the Environment), Hiroshi NAKAMURA(Nakamura Res. Inst. for birds)

ライチョウは2012年に日本版レッドリストで絶滅危惧IB類に指定されたのを機に保護増殖事業計画が策定され、これまで様々な保全策が実施されてきた。保護増殖事業はライチョウの生息地内である高山帯で実施される域内保全、動物園などで実施される域外保全2分野に分かれるが、今回は域内保全で得られた成果について報告する。日本国内において個体数の減少が最も著しかったのは南アルプス北部北岳(3,193m)周辺で、1981年には63あったなわばりが2014には9まで減少していた。そのため、高山帯にケージを設置し、野生環境で孵化した家族をこの中に誘導してライチョウの生活史の中で最も生存率の低い孵化後1か月間にわたり保護する「ケージ保護法」を実施した。この方法では、荒天以外の比は午前午後1回3時間ほどケージから出し自由に採餌させ、食べられる植物や、捕食者への警戒方法などを親から学べるようにした。ケージ内で給餌する餌もなるべく野生個体がその時期食べている植物を主に給餌した。2015年以降2019年までの5年間にわたり計14家族86羽の雛を保護、1か月後に72羽を無事放鳥した。ただし、2015年2016年は放鳥後2か月間の雛の生存率が0.0%、12.5%と著しく低かったため、2017年からは低山域から高山に侵入し、山小屋を中心に生活していると思われるテンのかご罠による捕獲もケージ保護と平行して実施した。2017年は8個体、2018年は7個体のテンが駆除され、放鳥後の雛の生存率はそれぞれ93.8%、73.3%大きく上昇した。ケージ保護開始から北岳中心の個体数は徐々に増加し、2019年には1981年の時のなわばり数の約半数にあたる32まで増加した。また、ケージ保護した雛が放鳥した場所から30km以上離れた南アルプス南部の山岳まで移動していることが確認されており、ケージ保護が北岳周辺のみならず南アルプス全体の個体数の増加に寄与していることが示唆された。


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