| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-07  (Oral presentation)

多数の胚珠を受精できる花粉散布のモデル解析:送粉数と交配相手数どちらを増やすか?
A model analysis of pollen dispersal that achieves the maximum number of seeds to sire: transferring more pollen or transferring to more mates?

*長谷川拓也, 牧野崇司, 酒井聡樹(東北大・院・生命科学)
*Takuya HASEGAWA, Takashi T. MAKINO, Satoki SAKAI(Life Sciences, Tohoku Univ.)

動物媒植物は、送粉者による花粉運搬を介して、他個体の種子の花粉親になる。繁殖成功を最大化するために、集団中の他個体にどのように花粉を分配すべきだろうか。多数の他個体に少しずつ花粉を届けるのと、少数の他個体それぞれに多量に届けるのとでは花粉親になる種子数が異なるだろう。本研究では、花粉分配を制御する戦略として、花粉粘着性に着目した。送粉者の数・花粉保持能力(体表構造)・拡散性の異なる環境において、どのような花粉粘着性が進化するのかを数値解析モデルを用いて求めた。
 無限数個体から成る植物集団を考える。各植物個体は一つの両性花を持つ。大多数は野生型であるが、ごく一部は、花粉粘着物質への投資量の異なる突然変異型である。各植物個体には一定数の送粉者が訪問し、ランダムウォークにより花粉が散布される。送粉者の訪花時には、粘着性に依存した割合で花粉の持ち去りと受粉が起こる。全持ち去り花粉の散布終了後、柱頭上の花粉占有率に応じて胚珠の花粉親を決定した。野生型と突然変異型の適応度を比較し、進化的に安定な花粉の粘着性を求めた。
 花あたり送粉者が少ない場合、送粉数(集団中の他個体に届けた総花粉数)をほとんど最大化する花粉粘着性が進化した。一方、花あたり送粉者数が多い場合、送粉者の花粉保持能力が高いもしくは拡散性が低い場合に限り、送粉数を最大化する花粉粘着性よりも高い花粉粘着性が進化した。この結果は、送粉数を犠牲にしてでも交配相手を増やす花粉粘着性が進化しうることを示している(粘着性の高い花粉ほど多数の交配相手を獲得できた)。多数の他個体に少しずつ分配する戦略が有利であるのは、各花において、有限の胚珠を巡る自花粉同士の競争を緩和できるためである。
 交配相手の増加が送粉数の大幅な減少を伴う場合、花粉散布戦略は送粉数を最大化する方向へと進化したが、僅かな減少で済む場合には、交配相手を増やす方向へと進化した。


日本生態学会