| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) L01-08  (Oral presentation)

山地草原の多様な植物種の花蜜に生息する真菌類の群集集合
Community assembly of nectar-inhabiting fungi across diverse plant species in a montane grassland

*平尾章(福島大学), 出川洋介(筑波大学)
*Akira HIRAO(Fukushima Univ.), Yousuke DEGAWA(Univ. of Tsukuba)

 花蜜内の微生物群集は、花の短い寿命の下で花ごとに隔離されて形成されるが、特定の酵母種などが常連として出現することが知られている。環境条件と種特性によって群集の構成種が必然的に決まるという従来の決定論的な解釈に対して、近年、先住効果や分散制限などの確率論的なプロセスが花蜜微生物の群集集合に大きく作用していることが示されている。本研究では、ローカルスケール内の多様な植物種内・種間において、花蜜微生物群集がどのように変化するのかを明らかにすることで、群集形成プロセスにおけるホスト環境がもたらす必然性の有無と偶然性について検討した。
 長野県菅平高原の山地草原において、春から秋までの季節を通して順次に開花していく虫媒花17種を選択し、花蜜内に含まれる酵母などの真菌類をメタバーコーディングで同定した。真菌群集の多様性として、個花レベルでのα多様性は総じて低く、局所群集内ではMetschnikowia属の酵母4種の中のいずれかの1種が特に優占する傾向が認められた。4種の優占酵母は様々なホスト植物種に出現し、同じホスト植物種であっても花ごとに優占する酵母種が入れ替わる傾向を示した。これらの優占酵母種が示すパターンは、クラスター分析によって類別化された局所群集グループとその指標種からも支持され、各々の優占酵母種に対応した局所群集グループには様々なホスト植物種由来のものが含まれていた。
 以上の結果から、地域内で季節にわたって形成される花蜜微生物のメタ群集において、その主要な真菌構成種は限定されているものの、局所群集内でどの真菌種が優占するかはホスト環境によらず偶然性が大きく作用することが示唆された。


日本生態学会