| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) L01-14  (Oral presentation)

データと統計に基づく生態学の科学方法論:樹木点配置データに事例
Scientific philosophy for ecology based on data and statistics: example about spatial tree distribution

*島谷健一郎(統計数理研究所)
*Kenichiro SHIMATANI(Inst. Statistical Mathematics)

植物の分布を決める2大要因に、環境(ニッチ仮説)と散布制限(中立仮説)がある。現実の分布では両者が影響しているのはほぼ自明であり、調べるべきは、その影響の強さの定量的な相対評価である。全個体の空間位置(x-y座標)情報(点配置データ)があるとき、空間点過程モデルの適用により、環境と散布制限のひとつの定量化ができる。空間点過程は90年代は定常性を仮定するモデルが中心だったが、2000年代からは非定常性を伴うモデルが主流となっている。ただし、何を非定常(環境依存)とするか。親の点配置か、各親の種子生産量か、場所ごとの散布距離か、現存娘世代の死亡率か、これらすべてか。何を非定常にするかで、モデル構造と、推定すべき未知パラメータは異なる。情報量規準やベイズファクターなどによるモデル相対評価で、検出できる非定常性を見極めた上で、環境と散布制限の相対的重要度の定量化が望まれる。本発表では、Palm尤度法を用いる方法論を提唱する。そこで設ける仮定や単純化は、生態学における科学方法論の限界と妥当性の検証材料にもなる。例えば、ある個体群から特定の環境依存は抽出でき別な環境依存はモデル選択で選ばれなかったとして、それはニッチ仮説の否定ではないが、肯定ともいえない。物理学と違って、影響をモデルで数値化しても、何らかの数理モデルから導かれる理論値と比較できるわけではない。もちろん、保全生態学的知見など、応用目的は統計モデルによる推定が必須に近いが、基礎科学の進歩という点で、統計モデルは何らかの寄与をしているのだろうか。こうした素朴な疑問を整理して発表を終える。


日本生態学会