| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) L02-06  (Oral presentation)

全ゲノム解析によるニホンノウサギの冬季毛色二型に関わる遺伝子の特定
Genome-wide scan identified a causative gene for winter color dimorphism in the Japanese hare

*木下豪太(京都大学), 布目三夫(名古屋大学), 郷康広(自然科学研究機構), 牧野能士(東北大学), 辰本将司(自然科学研究機構), Alexey P KRYUKOV(RAS Vladivostok), Sang-Hoon HAN(NIBR Incheon), Irina KARTAVTSEVA(RAS Vladivostok), 山田文雄(森林総合研究所), 鈴木仁(北海道大学), 井鷺裕司(京都大学)
*Gohta KINOSHITA(Kyoto Univ.), Mitsuo NUNOME(Nagoya Univ.), Yasuhiro GO(NINS), Takashi MAKINO(Tohoku Univ.), Shoji TATSUMOTO(NINS), Alexey P KRYUKOV(RAS Vladivostok), Sang-Hoon HAN(NIBR Incheon), Irina KARTAVTSEVA(RAS Vladivostok), Fumio YAMADA(FFPRI), Hitoshi SUZUKI(Hokkaido Univ.), Yuji ISAGI(Kyoto Univ.)

高緯度地域に生息する生物にとって、季節によって劇的に変化する環境への適応は極めて重要な課題である。ノウサギ属(Lepus)は世界でおよそ30種が知られるが、北半球の高緯度地域では、褐色の夏毛から白色の冬毛へと換毛することで全身が白化する。一方で、非積雪地域では冬毛も褐色であり白化しない。この冬季の毛色二型は明白な積雪環境への適応形質であるが、複数の種間や集団間で見られ、収斂進化が起きている。近年のゲノム解析研究により、北米に生息するカンジキウサギ(L. americanus)やユーラシアに生息するユキウサギ(L. timidus)では、毛色関連遺伝子として有名なAsipが冬季白化の原因遺伝子であることが明らかにされており、白化型Asipアレルは種間交雑によるadaptive introgressionを経て、大陸間で共有されていることが示唆されている。一方、日本列島には日本固有種のニホンノウサギ(L. brachyurus)が本州以南に生息しており、世界でも有数の豪雪地帯である日本海側では冬季に白化するが、積雪の稀な太平洋側では年中褐色である。しかしながら、このニホンノウサギの冬季の毛色二型がどのような進化的背景で獲得されたのかは明らかにされていない。そこで我々は、ニホンノウサギの全ゲノム配列を解読と集団ゲノミクスによる毛色二型の関連解析を実施し、その責任遺伝子の探索を行った。その結果、ニホンノウサギの毛色二型はAsipとは別の毛色関連遺伝子の変異によって獲得されたことが明らかとなった。これは即ち、日本列島に長く隔離され、大陸種との遺伝子流動が制限されていたニホンノウサギは、独自の遺伝的変異によって毛色二型を獲得し、列島内での積雪量の地域差に適応してきたことを示している。本研究は、ノウサギ属における冬季の毛色二型の収斂進化には、Asipアレルのadaptive introgressionだけでなく、別の毛色関連遺伝子の変異も関わっていることを初めて明らかにした。


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