| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム MES02-6  (Presentation in Symposium)

水草からせまる葉の表現型可塑性の仕組みと進化
Mechanisms and evolution of phenotypic plasticity in leaf forms in aquatic plants

*古賀皓之, 塚谷裕一(東京大学)
*Hiroyuki KOGA, Hirokazu TSUKAYA(The University of Tokyo)

水辺に生育する植物、いわゆる水草は、劇的な表現型可塑性を示すことがよく知られている。水辺の環境はしばしば水位の変動にさらされ、植物の一部、または全部が水没することがある。そこで、自ら動くことのできない植物は、水没という劇的な環境変化に対してその姿を大きく変えることによって対応していると考えられている。特に光合成器官である葉の表現型可塑性は異型葉性と呼ばれ、同一の個体でも、環境に応じて極めて異なる形の葉を作ることがある。我々の興味は、この劇的な形態変化が発生学的にどのように制御されているのか、そしてその機構がどのように進化してきたのか、さらにはその生態的意義や、こうした機構が植物の葉の形態進化にどのように寄与しうるのか、という点にある。こうした疑問を解くにあたり、エピジェネティクス解析は非常に重要な示唆を与えてくれると考えられるが、特に水草のような、研究モデル植物でも作物でもない材料を使う場合は、その解析に至るまでの道のりはなかなかに険しいものである。実際、我々は劇的な異型葉性をもつオオバコ科の水草、ミズハコベとその近縁種をモデルに用いて異型葉性の解析を進めているが、エピジェネティクス解析については残念ながら未だその基盤を整えている段階である。そこで本発表では植物の顕著な可塑性の例として、これまでにわかってきた本種の異型葉性のしくみを紹介し、葉の可塑性とその進化、そしてエピジェネティクスとの関わりについて考察する。また今後の展望として、本種のエピジェネティック解析に向けたゲノム配列解読等の取り組みについても触れ、非モデル植物の分子発生実験系を一から立ち上げてきた経験を共有したい。


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