| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-015  (Poster presentation)

時系列因果解析による局所個体群間の移動方向の推定
Use of time-series causality test to determine the direction of migration between local populations

*長塚健汰, 小泉逸郎(北海道大学大学院)
*Kenta NAGATSUKA, Itsuro KOIZUMI(Hokkaido Univ.)

生息地パッチ間の個体の移動は局所個体群の動態や存続性に影響を与えることが理論的に示されている。しかし、野外で複数の個体群において個体の移動と個体群動態を長期間追跡するのは難しく、個体群動態が移動により相互作用している様を捉えた研究は少ない。そこで本研究では時系列因果解析のひとつであるConvergent Cross Mapping (CCM)に注目した。局所個体群動態間に何らかの相互作用があるならば、その作用はパッチ間の個体の移動によって伝わっていると考えられる。したがって各パッチの個体群動態をCCMで解析することで、パッチ間の個体の移動による影響の強度および方向を知ることができる。カナダオオヤマネコ(Lynx canadensis)は世界的にも稀有な大規模長期データが利用できる個体群動態のモデル生物である。中心的な生息地パッチはカナダに存在し、少数の個体がアメリカで周辺的パッチに生息している。また、個体群サイズの大きい中心的パッチが、周辺的パッチの個体群動態に移住の影響を与えていると考えられている。本研究では本種を対象に、中心的パッチ - 周辺的パッチの個体群動態間の因果関係をCCMで明らかにすることを目的とした。カナダの6州2準州とアメリカの2州におけるLynxの算出毛皮数の長期データ(1925-2003)を個体数とした。州をパッチと見なし、カナダ-アメリカ間でパッチのペアを作ってCCMで解析を行った。解析は各ペアに対して時系列のタイムラグを±5年までずらして行った。解析結果は先行研究のFstと負の相関を示し、集団間の遺伝的距離が離れるほど因果関係も弱くなった。また、Montana – Alberta等いくつかのペアでは周辺的パッチから中心的パッチへの影響の方が逆方向のそれを上回った。このことから、従来考えられていたよりも周辺的パッチがメタ個体群の動態に及ぼす影響は大きいことが示唆された。本研究から、局所個体群間の移動およびそれが個体群動態に与える影響を理解するうえで、CCM解析が有効であることが示された。


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