| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-064  (Poster presentation)

共食いとオタマジャクシ捕食下におけるクロサンショウウオの顎形質の変化
Morphological changes of Japanese black salamander's jaw in cannibalism and predation on tadpoles.

*清水宏一郎(新潟大・農学部), 後藤俊矢(新潟大・農学部), 岸田治(北大・北方圏FSC), 阿部晴恵(新潟大・佐渡演習林)
*Kouichirou SHIMIZU(Niigata Univ.), Toshiya GOTO(Niigata Univ.), Osamu KISHIDA(Hokkaido Univ.,FSC), Harue ABE(Niigata Univ.,Sado)

 環境の変化に応じて表現型を変化させていく能力を表現型可塑性と呼び、表現型可塑性に関する研究は進化学的に重要なテーマとなっている。その一つとして、北海道のエゾサンショウウオはエゾアカガエル幼生がいる環境で育つ、またエゾサンショウウオ同士の共食いが起こる環境で、誘導攻撃として顎の大顎化を発現することが明らかになっている。しかし、これがエゾサンショウウオという種固有の性質なのか、他種に共通するものなのかは明らかでない。そこで本研究では、本州や佐渡島に生息するクロサンショウウオの大顎化発現の有無を実験下で検証した。
 実験は、佐渡島と福島県只見町で採取したクロサンショウウオの卵嚢から孵化した個体を使用した。まず孵化した個体を1匹、5匹、20匹と密度を変えて水槽に入れ飼育し、3週間後の体長、顎幅を測定した。次に大顎化したクロサンショウウオとヤマアカガエル幼生を1:50の割合で水槽に入れ、2週間後のクロサンショウウオの体長、顎化を計測した。
クロサンショウウオのみの飼育実験後、水槽内の個体数の減少や大顎の定義を満たす個体の出現が起こったことから、サンショウウオの共食い並びに大顎化の発現が明らかとなった。また大顎化個体の出現は20匹水槽のみであったため、大顎化出現は密度依存することも明らかとなった。ヤマアカガエル幼生との実験では、クロサンショウウオは実験前より実験後で体長、顎幅どちらも大きくなったため、他種捕食により大顎化が加速したことが明らかとなった。
 本結果から、先行研究で知られているエゾサンショウウオと同様に、クロサンショウウオでも大顎化の表現型可塑性を発現することが明らかとなった。しかし、その発現量はエゾサンショウウオと比較してクロサンショウウオのほうが少ない。これは個体の生息する環境影響を受けるものと考えられ、今後は生息環境と発現量の違いについて研究を進めていく必要がある。


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