| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PB-152  (Poster presentation)

クワガタムシと酵母の共生:共生酵母の維持における酵母運搬器官マイカンギアの役割
Roles of mycangia for maintenance of yeast symbionts in stag beetle-yeast synbioses

*山本大智(名古屋大学大学院), 棚橋薫彦(台湾師範大学), 深津武馬(産業技術総合研究所), 土岐和多瑠(名古屋大学大学院)
*Daichi YAMAMOTO(Nagoya Univ.), Masahiko TANAHASHI(National Taiwan Normal Univ.), Takema FUKATSU(AIST), Wataru TOKI(Nagoya Univ.)

木材は主に難消化性高分子(セルロース、ヘミセルロース、リグニン)で構成され、多くの動物は利用困難である。材食性昆虫の多くは、これらを分解可能な微生物と共生し、材を餌として利用する。いくつかの材食性昆虫は、共生微生物を運搬するために特殊化した器官(マイカンギア)を有し、垂直伝播を行う。マイカンギア内の共生/非共生微生物の存在や量は、垂直伝播の成功に大きく関係するため、マイカンギアは微生物叢を調節する機能を持つと予想される。すなわち、共生微生物を増やし、非共生微生物の定着を防ぐかもしれない。しかしながら、これを検証した研究はごくわずかにとどまる。
クワガタムシ科昆虫の成虫は樹液を摂食し、幼虫は腐朽材を摂食する。白色腐朽材利用のコクワガタを含む種からは難消化単糖キシロースを分解可能な酵母と共生する。これらの種では、共生酵母が幼虫による材の消化を助け、メス成虫は腹部にあるマイカンギアで共生酵母を運搬し、産卵時に垂直伝播するとされている。
コクワガタが利用する白色腐朽材はキシロースが豊富であるため、共生酵母は幼虫の成長に重要であると考えられる。このことからコクワガタはマイカンギアで酵母叢を調節しているかもしれない。
本研究では愛知県名古屋市のコクワガタについて、成虫の性成熟の程度とマイカンギア内の共生酵母量の関係、樹液の酵母叢とマイカンギア内の酵母叢の関係を調べた。その結果、マイカンギアは全ての個体で、ほぼ共生酵母のみで占められ、その量は、未成熟個体と比べ、産卵期間中の個体で増加した。樹液は種数、量ともに豊富に酵母を持つものの、マイカンギアにはこれらの酵母はほとんどみられなかった。これらのことからコクワガタのマイカンギアは酵母叢を調節する機能を持ち、垂直伝播の確実性を高める役割を持つこと示唆された。


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