| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-221  (Poster presentation)

雪害による樹冠欠損がスギの幹表面呼吸の鉛直変化へ与える影響
The effect of lost canopy by snow damage on the vertical variation of stem surface respiration in Japanese Cedar

*高橋春那(岐阜大・院・自然研), 斎藤琢(岐阜大・流域研)
*Haruna TAKAHASHI(Graduate School, Gifu Univ.), Taku M. SAITOH(RBRC, Gifu Univ.)

 冠雪害はスギ林における代表的な攪乱の一つであり、スギ林の炭素循環の長期変動を考える上で、雪害がスギ林生態系の炭素循環過程へ及ばす影響を理解することが重要となる。森林生態系の炭素循環の主要素の一つである幹表面呼吸は鉛直変化があることが指摘されており、個体や林分へスケールアップを行う際にその鉛直変化を考慮する必要性が指摘されている。そこで本研究では、(1)雪害による樹冠欠損がスギの幹表面呼吸の鉛直変化へ与える影響とその要因を明らかにし、(2)幹表面呼吸の鉛直変化の考慮の有無が個体スケールの幹表面呼吸の推定に及ぼす影響を定量的に評価する。
 本研究では2014年12月に大きな雪害を受けた岐阜県高山市のスギ林を調査地とした。調査地には、健全木(H)、樹冠一部残存木(BSc)、幹折木(BS)の樹冠状態の異なる3種類のスギが混在する。本研究ではH、BSc、BSの各種に、地上高約1 m(以下、下側)と2.8 m(以下、上側)に2つカラーを設置し、2019年6月から12月の間おおよそ月に一度、幹表面呼吸観測および環境要因計測を行った。またBSについて鉛直変化を考慮した場合としなかった場合の1個体あたりの幹表面呼吸を推定し比較した。
 いずれの樹冠状態においても、観測高度に関わらず、幹表面呼吸量はおおむね7月に最大となる明瞭な季節変化を示した。また、6月、7月、9月において、BSについてのみ上側よりも下側の方が高い傾向が見られた。12月においてはBSに加えBScでも同様の傾向が見られた。幹表面温度は計測期間を通して、下側よりも上側の方が高い傾向が見られ、幹表面呼吸の鉛直変化が生じたのは温度による呼吸活動の活性度が要因ではないことが考えられる。また、BS1個体あたりの幹表面呼吸量を推測した結果、鉛直変化を考慮しなかった場合の方が大きな値となり、BSにおいては幹表面呼吸の鉛直変化を考慮しないでスケールアップを行うと過大評価する可能性が示唆された。


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