| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-256  (Poster presentation)

グッピー野外集団におけるオスの交配成功によって選択されたゲノム領域の推定
Estimating genomic regions selected through male mating success in the wild populations of the guppy

*志田佳名子, 稲田垂穂, 岩嵜航, 河田雅圭(東北大学)
*Kanako SHIDA, Taruho INADA, Watal M IWASAKI, Masakado KAWATA(Tohoku Univ.)

グッピー(Poecilia reticulata)は、オスでのみオレンジや黒、青などの派手な体色を示す。一見、生存に不利と思われるオスの派手な体色は、メスによって選好されることが知られ、体色と選好性の性選択モデルが複数提唱されてきた。例えば、good gene仮説やsexy son仮説があり、メスは配偶者選好性を通じて、子どもの生存力向上や魅力度など、間接的な利益を得ることができると仮定されている。これらの仮説では、遺伝子レベルでの様々な仮定をしているにも関わらず、表現型レベルで示された先行研究が多く、遺伝子レベルで示された研究例はほとんどない。仮説の直接的な検証には、野外集団において、メスの配偶者選好性を通じ、子どもに引き継がれるオスのゲノム領域を特定する必要がある。本研究では、河川環境やオスの体色の傾向が異なる3地点の野外集団を用いて、親世代と子世代のアレル頻度における網羅的な比較をおこない、子どもへ遺伝する交配成功したオスのゲノム領域を検出した。検出されたゲノム領域(window解析の上位1%)には、シグナル形質(体色・鰭)や生存力(免疫・抗酸化)への関連遺伝子など、402〜434個の遺伝子が各集団で含まれていた。そのうち、免疫や抗酸化関連遺伝子は、good gene仮説で仮定されている候補遺伝子の可能性が示唆された。また、各集団で検出された遺伝子は異なる染色体上の様々な領域に位置し、3集団で共通の遺伝子は検出されなかったことから、メスの配偶者選好性は集団間で変化している可能性がある。本研究は、野外集団において、メスの配偶者選好性を通じ、交配成功したオスの遺伝領域を初めて検出することができた。今後、今回検出された遺伝子を用いた分子実験や行動実験をおこなうことで、メスの配偶者選好性の進化への新たな理解につながると期待される。


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