| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-260  (Poster presentation)

日本産トゲオオハリにおける共生細菌の伝播様式の解明
Elucidation of transmission pattern of symbiotic bacteria in Diacamma sp. from Japan

*山下倫桜(関西学院大学), 松浦優(琉球大学), 伊藤英臣(産総研), 北條賢(関西学院大学), 菊池義智(産総研), 下地博之(関西学院大学)
*Rio YAMASHITA(Kwansei Gakuin University), Matsuura YU(University of the Ryukyus), Hideomi ITO(AIST), Masaru K HOJO(Kwansei Gakuin University), Yoshitomo KIKUCHI(AIST), Hiroyuki SHIMOJI(Kwansei Gakuin University)

昆虫と細菌の共生関係は自然界で広くみられ、宿主の生存に大きな影響を与えている。アリは真社会性昆虫と呼ばれ、個体間の分業体制によって社会を形成している。このような社会性を持つアリでも個体および社会の維持に必須となる細菌との共生が報告されてきた。しかしながら様々なアリ種で細菌叢の網羅的解析が行われている一方で、それら細菌の伝播様式は殆ど未解明である。最近、我々はアリ類の祖先的な種である日本産トゲオオハリアリを調査し、ワーカー個体のみに優占する共生細菌(Unclassified Firmicutes: 以下UF)を見出した。本研究ではトゲオオハリアリにおけるUFの体内局在および伝播様式を明らかにする事を目的とした。まず蛍光in situハイブリダイゼーション法を用いてワーカー体内におけるUFの局在を顕微鏡観察したところ、後腸および直腸内でUFのシグナルが検出され、UFが後腸内に局在していることが明らかとなった。次に飼育コロニーの幼虫から成虫まで各発生段階のUFを対象とした定量的PCRを行った結果、ワーカーでは多かったUFが幼虫や蛹において検出されないことが判明した。さらに、ワーカーの糞にもUFが多数存在する事が定量的PCRと顕微鏡観察により確認された。そして、抗生物質処理によりUFを除去したワーカーをUF保持ワーカーの糞が存在する巣で飼育したところ、UFを再獲得する事実を発見した。これらの結果を総合すると、UFは保持ワーカーの糞を介してコロニー内のワーカーへ水平伝播されるものと考えられた。本種は「巣別れ」によってコロニーが増殖し、新たに生じた女王不在のコロニーにおいて次に羽化した個体が新女王となるため、女王以外のワーカー間によるコロニー内の共生細菌伝播様式が進化した可能性がある。本研究で得られた新規伝播様式と共に今後はUFの機能に焦点を当て、昆虫社会−細菌共生の進化を明らかにしたい。


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