| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-333  (Poster presentation)

モウソウチク地上部呼吸スケーリングから見る隣接森林への侵入 【B】
Invasion of Moso bamboo into adjacent forest: convergence of whole-shoot respiratory scaling between the bamboo and trees. 【B】

*王莫非(岩手連大, 山形大学), 森茂太(山形大学), 黒澤陽子(岩手連大, 山形大学), 山路恵子(筑波大学)
*Mofei WANG(UGAS, Iwate Univ., Yamagata Univ.), Shigeta MORI(Yamagata Univ.), Yoko KUROSAWA(UGAS, Iwate Univ., Yamagata Univ.), Keiko YAMAJI(University of Tsukuba)

 タケの森林への侵入が問題となっており、両者の成長に関わる生理や形態の違いが関与すると予想される。しかし、両者の競争関係の基盤となる地上部全体の生理機能の比較研究は無い。そこで、モウソウチクと樹木(Mori et al. 2010)の地上部呼吸スケーリングを比較して、両者の生態学的な関係を検討した。
 その結果、タケと樹木の地上部全体の呼吸と重量の関係は両対数軸上でほぼ同じ傾きの単純ベキ乗式で近似できた。その傾きは、タケ0.843(95%CI:0.797-0.885)、樹木0.826(95%CI:0.800 - 0.851)と、統計的によく一致した。このように、地上部呼吸では両者に明確な優劣は見られず、地上部レベル呼吸から明確な侵入要因は明らかにならなかった。
 次に大小タケ地上部の器官別呼吸配分から、侵入要因を検討した。その結果、タケ地上部の葉、枝、稈全体の呼吸はそれらの重量に比例しており、重量当たり呼吸はそれぞれ葉:1.192 ± 0.073, 枝:0.224 ± 0.022, 稈:0.097 ± 0.020 (μmolCO2 kg-1 sec-1)と各器官でほぼ一定であった。不均一環境下では、タケ地上部間で炭素が移動する結果、竹林全体の器官呼吸が一定となった。一方、これら葉、枝、幹への重量配分は小地上部ほど葉への配分は高く、大地上部ほど幹への重量配分が高い傾向が見られた。
 さらに、試験地竹林全体のサイズクラス別の立木位置から、小地上部ほど林縁の明るい環境にあり、大地上部ほど竹林中央部に位置する傾向が見られた。以上より、葉の重量割合の高い小地上部ほどエネルギー獲得の役割を持ち、稈の重量割合の高い大地上部ほど稈内に非構造性炭素を多く持ちエネルギー蓄積の役割を担うのであろう。大小の地上部間で生理統合された竹林は「地上部サイズに応じたエネルギーの獲得と蓄積をめぐる機能分化」を実現させるのだろう。こうした分業化によって竹林全体が不均一な環境で効率的にエネルギーのやりくりできる能力をもつことが、森林への主な侵入メカニズムの一つかもしれない。


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