| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-339  (Poster presentation)

不均質な土壌資源分布下でのクローナル植物カキドオシの匍匐枝維管束の解剖学的解析
Anatomical studies on vascular bundles of a stoloniferous clonal herb Glechoma hederacea under patchily distributed soil resources

*伊藤允, 立木佑弥, 鈴木準一郎(首都大学東京)
*Makoto ITO, Yuuya TACHIKI, Jun-Ichirou SUZUKI(Tokyo Metropolitan Univ.)

 水や栄養塩などの土壌資源は空間的に不均質に存在し、その効率的利用は植物にとって重要である。クローナル植物は、葉と茎と根を有し独立して生存可能な植物体(親ラメット)が、匍匐枝や地下茎などを展開し、子孫のラメットを体細胞分裂により生産する。このため、ラメット間で生育環境は異なる可能性がある。さらに物理的に連結したラメット間で、匍匐枝の導管を通して栄養塩・水などを転流(生理的統合)させるクローナル植物は多く、資源の効率的獲得に有利とされている。伸長成長に伴い匍匐枝は、維管束形成層で導管を二次的に発達させる。これにより、生育環境下にある資源の増加に伴い生理的統合の資源輸送効率(資源の透過性)を上昇させる可能性がある。本研究では、親よりも子孫ラメット生育環境下の資源量が大きいほど、匍匐枝の導管面積が増加し、資源輸送効率が向上するという仮説を検討した。
 クローナル植物のカキドオシ(Glechoma hederacea)を材料に、給水量と栄養塩量を変化させる2要因乱塊法の栽培実験を実施した。親ラメットに由来する子孫ラメットの水条件は富水・中水・貧水の3水準、栄養条件は富栄養・中栄養・貧栄養の3水準とした。全ての親ラメットは中水・中栄養で栽培した。匍匐枝切片の顕微鏡画像から測定した平均導管面積(mm2)、および導管の資源輸送効率(mmol MPa-1s-1)について、土壌資源の影響をラメットの世代(親・2・4・6世代)で比較した。
親ラメットから4世代後までの匍匐枝の平均導管面積には有意差が見られなかった。6世代後の平均導管面積は水量が多いほど有意に大きくなり、資源輸送効率も水量が多いと向上した。反対に、親ラメットより子孫ラメットの水条件が悪い場合、導管面積の増加は小さくなり、資源輸送効率は向上しなかった。これらの結果から、世代の経過で水量に応じて導管面積は増加し、水量が大きいほど資源輸送効率が向上し、効率のいい資源転流に寄与すると考えられる。


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