| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-344  (Poster presentation)

木部細胞の機能分化と木部への窒素投資戦略との関わり:12樹種間の比較
Relationship between xylem cell functional differentiation and xylem nitrogen investment strategy

*多賀洋輝, 小野田雄介, 髙部圭司, 北山兼弘(京都大学)
*Hiroki TAGA, Yusuke ONODA, Keiji TAKABE, Kanehiro KITAYAMA(Kyoto Univ.)

 樹木では、必須元素である窒素の大部分は木部に存在する。木部は道管、繊維、柔組織などから成り、各組織への窒素分配戦略は種の適応度に影響すると考えられるが、木部の解剖形質と窒素含量および機能特性の関係性は明らかでない。
 本研究では特に道管(仮道管)の径に着目した。進化的に古い針葉樹の材は小径な仮道管のみを持つが、進化的に新しい広葉樹の材は大きな径の道管と厚い細胞壁の木部繊維に組織が分化している。道管の通水量は径の4乗に比例し、径が大きいほど道管組織の断面積あたりの通水量が飛躍的に高まる(Hagen-Poiseuille law)。そのため、道管の径を拡大して通水量を高めつつも、道管組織の体積を減らすことが出来る。また、生じた余剰空間に、繊維や柔組織を増やすことで支持や貯蔵機能を高めることが可能である。こうした分化により、材の細胞の大きさの格差 を顕著になる。 また窒素投資の視点からは、柔組織は窒素濃度が高く、繊維組織は窒素濃度が低いと考えられ、両組織が共に増加した場合、材の窒素濃度がどう変化するかは明らかでない。
 本研究では芦生研究林(京都府)に生育する12種を対象に、木部の解剖学的特性と窒素濃度の種間変異を調べた。解剖形質については、各組織量を測定するだけでなく、道管の発達を評価するために細胞格差指標を作成した。この指標値は経済格差の指標であるジニ係数を木口面の細胞直径に転用したもので、道管径が繊維細胞径よりも相対的に大きいほど高くなる。
 結果、細胞格差指標は通水性指標(木口面積当たりの道管径の4乗の和)、材密度、放射柔組織の割合と正に相関し、道管径の増大に伴って通水だけでなく支持と貯蔵機能も高まることが示唆された。また、木部の窒素濃度は柔組織の割合と強い正の相関を示し、繊維組織の割合とは相関しなかった。以上より、12樹種を通じた道管径の増大は、特に柔組織の増加と並行して起こり、木部の窒素要求量を高めることが明らかになった。


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