| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-363  (Poster presentation)

異なる光環境下で生育したブナ実生の生理応答と病害抵抗
Physiological responses and disease resistance of beech seedlings grown under different light environments

*内山慎也, 吉村謙一, 芦谷竜矢, 長谷修(山形大学)
*Shinya UCHIYAMA, Kenichi YOSHIMURA, Tatsuya ASHITANI, Shu HASE(Yamagata University)

 実生段階の生存及び枯死は森林動態の重要な決定要因であり、その中でブナ当年生実生について暗い林床で死亡率が高く、菌害の寄与が大きいと報告されている。しかし、現在枯死に至る生理的なメカニズムについての研究は不足しており、枯死原因への対策を行うことが難しい。そこで本研究は、ブナ当年生実生に被陰と立枯を起こす菌(Colletotrichum dematium)接種という複合ストレスを与え、それに対する生理的応答を明らかにすることを目的とした。
 ブナ実生に遮光シートを被せることで被陰ストレスを与えた。菌の接種は自然界での感染経路を模して物理・化学防御の両方を見るための噴霧接種と、物理防御をなくし菌侵入への応答を見るための付傷接種を行った。測定項目は、①個体全体の呼吸・光合成②サイズ③細胞を染色しての観察④糖分析⑤抗真菌化合物の定量である。
 被陰処理により呼吸・光合成量の低下と成長量の低下が起こり、利用可能な炭素が減少していると分かった。噴霧接種では茎の密度が上昇し、菌の侵入を防ぐための物理的な防御反応を行うと分かった。付傷接種では明環境で菌を接種した個体でのみ光合成量に対する呼吸量の割合が高く、細胞活性の上昇が菌への防御に関与している可能性があると考えられた。被陰するとこのような反応が見られず、光合成産物の量に依存することが示唆された。また被陰と菌接種の複合による落葉がみられ、ストレスが複合すると単一の場合よりも大きなストレスを受けると分かった。複合的ストレスを与えた個体では最も広範囲で道管内が染色されたことから、菌侵入への応答として生産した物質により、通水性が低下したことが落葉の原因であると考えられた。これらのことから、ブナ当年生実生は菌に対して防御を行うが、被陰下では光合成が低下し炭素不足から菌侵入後の防御反応を十分に行えないため、菌害に弱くなるということが明らかになった。


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