| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-403  (Poster presentation)

半自然草原の歴史の長さが蛾類群集に与える影響 【B】
The effect of temporal continuance of semi-natural grasslands on moth communities 【B】

*上倉優, 井上太貴, 田中健太(筑波大・山岳セ)
*Masaru KAMIKURA, Taiki INOUE, Tanaka KENTA(MSC, Univ. Tsukuba)

 半自然草原は、近年の農業形式の変化等により、世界各地で急速にその面積が減少し、多くの草原性の生物が絶滅の危機に瀕している。近年、草原の継続期間が長い(歴史が古い)程、生物多様性が高くなることが相次いで報告されている。しかし、そのメカニズムはまだ解明されておらず、どのような特徴をもった生物が古草原に依存しているのか分かっていない。そのため、本研究においては種数が多く、食性等の生態的な特徴が多岐にわたる蛾を対象として、古草原、新草原、森林という3つの植生タイプの間での種組成や多様性の違いを調べた。
 長野県において半自然草原が維持されている菅平高原にて古草原 7地点、新草原 6地点、森林 6地点の計19地点にライトトラップを設置し、2019/8/25~9/5に約24時間点灯する紫外線LEDライトで蛾の捕獲を各地点において2回ずつ実施した。なお、調査地点と異なる植生からの蛾の飛来を防止するため、光の照射範囲を覆いによって左右120度に制限し、斜面上方の地面に光を当てて、異なる植生タイプにいる蛾から光が見えないようにした。地面の斜度に応じて光の仰俯角を変え、光が照射される地面の面積がどの地点でも約750 m2になるようにした。
 調査の結果、計537個体の蛾が採集された。蛾類の種組成は草原と森林で異なっておりp < 0.001 PERMANOVA 異なる植生からの混獲を抑えられていると考えられた。古草原と新草原の間では種組成に有意な違いはみられなかったものの、調査地点の半径1000m以内にある古草原の面積が種組成に影響を与えている傾向があった p = 0.53 草原で本来成立する蛾類群集の維持には、ある程度の広い古草原面積が必要であることが示唆された。指標種分析の結果、古草原に特有な指標種は検出されなかったが、草原全体の指標種が2種、森林の指標種が4種検出された。今後は、ライトトラップの出力・数・日数等を増やすことで採集個体を増やし、古草原指標種の検出や、その種特性分析を行いたい。


日本生態学会