| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-415  (Poster presentation)

圃場管理手法が雑草植生及び飛翔性昆虫類にもたらす影響
Effects of farm management practices on weed vegetation and flying insect communities

*佐藤榛名, 曽我昌史, 加藤洋一郎, 吉田薫(東京大学)
*Haruna SATO, Masashi SOGA, Yoichiro KATO, Kaoru YOSHIDA(University of Tokyo)

現在、農業生態系及び生物多様性の保全と作物生産が両立する農業が求められている。この目的に適う理想的な農法を構築するためには、農業管理の諸要素が生態系に与える影響を詳細に明らかにする必要がある。そこで本研究では、除草剤の有無と耕起方法の違いが、雑草植生及び飛翔性昆虫類に与える影響を解明することを目的とした。
 調査は東京大学農学生命科学研究科生態調和農学機構内に設置した除草剤の有無、耕起方法の違い(部分耕・慣行耕)を組み合わせた4通りの調査区(各4反復で計16調査区)と、圃場外の雑草区と裸地区を合わせた合計18調査区で行った。トウモロコシ播種後25日目の各調査区に丸山式FITを3基設置し(48時間)、飛翔性昆虫を採集した。また、各調査区に60cm四方のコドラートを1箇所設置し、雑草類の種数と量(新鮮重)を計測した。
 解析の結果、除草剤使用区では、雑草量が有意に低いことが分かった。除草剤不使用区ではメヒシバが優占するが、慣行耕/除草剤不使用区ではスベリヒユも比較的多かった。昆虫類のデータを解析した結果、大型ハチ目は除草剤使用区で個体数が多かったが、バッタ目、カメムシ目、ハエ目、アザミウマ目は不使用区の方で有意に多かった。害虫とされるバッタ目、カメムシ目、アザミウマ目の総個体数は除草剤使用区で有意に少なかったが、益虫とされるハチ目の総個体数は部分耕/除草剤不使用区で有意に少なかった。パス解析の結果、除草剤の有無と耕起方法の違いは、雑草量を介してバッタ目及びアザミウマ目の個体数に影響を与えることがわかった。
 本研究から、除草剤は農地の雑草植生や飛翔性昆虫に大きな影響を与えること、部分耕という環境保全型の農法はそれらの生物に対してほとんど影響を与えないことが明らかとなった。土壌が耕起により変貌するには長い年月がかかると言われており、今後継続した調査が必要と考えられる。


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