| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-433  (Poster presentation)

ヤクシカの食性の地域・季節差―糞中の植物rbcL配列組成を用いた食性推定―
Regional and seasonal differences in plant composition in feces of Cervus nippon yakushimae: Estimation using rbcL sequences

*東悠斗(九州大学), 廣田峻(東北大学), 陶山佳久(東北大学), 矢原徹一(九州大学)
*Yuto HIGASHI(Kyushu Univ.), Shun K. HIROTA(Tohoku Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.), Tetsukazu YAHARA(Kyushu Univ.)

屋久島ではヤクシカの摂食によって林床植生が減少している。ヤクシカの個体群動態とそれに伴う植生への影響を予測するためには、植生被度が低下した林床で、ヤクシカが何をどの程度食べているか明らかにする必要がある。本研究では、ヤクシカの餌植物の地域差・季節差を評価するために、害獣駆除などによる捕獲実施地域:C1、C2と、非捕獲地域:N1、N2、N3で2018年4、6、8、10月に採取した227個の野外糞試料に残存する餌植物種の葉緑体DNA断片(rbcL領域)の配列を、次世代シークエンサーを用いて決定した。その結果、被子植物71 taxa、裸子植物3 taxa、シダ植物14 taxa、コケ類14taxaが同定された。シカ1個体あたり1-26 taxa (10.29 ± 4.77 OTU, mean ± SD) が検出された。配列数上位3つの餌植物は5地域で共通して常緑性高木だった。常緑性高木以外では、上位15位までに、ミズスギをはじめとしたシダ植物、ハナガサノキなどのつる植物、ミズ属など草本が全地域で含まれていた。主要な餌植物は季節によって有意に変化し、N1では4月にアコウの、C1、N1、N2では6月にブナ科の占める割合が増加した。また、餌植物の多様性は個体数密度の低い捕獲地域でより高かった。
これらの結果から、ヤクシカの主な餌は常緑性高木種であることが明らかになった。それぞれアコウ、ブナ科が増加した4、6月は、各分類群の落ち葉が増える時期と一致することから、ヤクシカは主に落ち葉や落下する果実を採食していることが示唆された。また、非捕獲地域では餌植物の多様性が低いことから、シカ密度増加によって採食できる植物の多様性が低下していることが示唆された。一方、全地域でシダ類や草本が採食されていることから、シカは非捕獲地域でも残存する小型植物に対し、採食圧を掛け続けていることが示された。


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