| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PD-442  (Poster presentation)

東北地方の農村景観における外来種ハクビシンの行動圏と環境選択
Home range and habitat selection of the introduced masked palm civet in a rural landscape in Tohoku region

*鳥屋部文香(山形大学大学院)
*Ayaka TORIYABE(Yamagata Univ.)

 外来種であるハクビシンは現在ほぼ全国に分布しており、果樹をはじめとした農作物への被害や家屋侵入による被害を引き起こし問題となっている。果樹園や住宅地が存在する地域ではこれらの環境を選択的に利用すると考えられるが、その実態は調べられておらず、対策に必要な基礎的知見は不足しているのが現状である。そこで本研究では森林や耕作地、住宅地といった環境を含んだ典型的な農村景観におけるハクビシンの行動圏と環境選択性を明らかにすることを目的とした。
 調査は2019年5~11月に山形県鶴岡市の農村景観において実施した。調査地は主に森林と水田、果樹園、住宅地で構成されており、ほぼ林縁に沿って高速道路が通っている。調査地内において箱罠で捕獲した5頭(オス3頭、メス2頭)に対してラジオテレメトリー調査を行い、位置情報を入手した。この位置情報を用いて、行動圏を100%最外殻法によって解析した。環境選択の解析では、一般化線形混合モデルを用いて、広葉樹林、針葉樹林、水田、果樹園、住宅地、高速道路に対する季節ごとの選択性を個体ごとに解析した。
得られた位置情報から推定された平均行動圏サイズは204±154ha (n=3) で、これを先行研究と比較すると奥山より小さく郊外より大きい結果となり、食肉目動物の行動圏は都市化するほど小さくなるという一般的な傾向と一致した。また、4個体における環境選択の解析の結果、個体によって果樹園や高速道路の選択や針葉樹林の忌避が見られた。一方で、広葉樹林、水田、住宅地については選択と忌避のどちらも示された。季節ごとの選択性に明確な傾向は見られず、全体として選択性は個体差が大きい結果となった。
 以上のことから同じ地域内に生息している場合でも利用する環境は個体間で差が大きく、これが本種が森林や里山、郊外、都市といった幅広い環境での生息を可能にしている要因の一つであることが示唆された。


日本生態学会