| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PD-458  (Poster presentation)

市民科学データを用いたナガミヒナゲシの分布調査
Distribution survey of Papaver dubium using citizen science data

*志賀弘貴, 下野綾子(東邦大学)
*Hiroki SHIGA, Ayako SIMONO(Toho Univ.)

 外来種対策では分布状況を把握することが重要であるが、広範囲に分布拡大している外来種について少数の研究者のみで分布調査を行うのは困難である。そこで市民科学データを用いることで広範囲の分布調査が可能になると考えられるが、分布調査における市民科学データの有用性には不明な点が多い。したがって本研究では、日本全国に分布拡大している外来植物ナガミヒナゲシを対象に、市民科学データ及び調査・標本データを用いて分布調査を行い、これらのデータから生育適地モデルの一つであるMaxentモデルを構築し、調査・標本データと比較することで市民科学データの有用性を評価することを目的とした。
 市民科学データは主にTwitterとGmailを用いて、ナガミヒナゲシの在地点を市民に報告してもらうことで収集した。調査・標本データは調査文献や植物標本、GBIFの位置情報により収集した。Maxentモデルでは、在データとして市民科学データ、調査・標本データ及びこれらの統合データを使用し、環境変数として年間平均気温、年間降水量、年間最深積雪、標高、傾斜度、5つの土地利用面積 (荒地、建物用地、道路、鉄道、その他の人工用地) の10変数を使用し、日本全国を対象に3次メッシュ単位で生育適地を予測した。モデルの精度はAUCの値で評価した。
 市民科学データでは354件、調査・標本データでは492件の在データが取得され、本州内陸部を中心に分布することがわかった。在地点の環境変数を比較すると、市民科学データは調査・標本データよりも建物用地及び鉄道の面積は有意に高く、傾斜度は有意に低かった。Maxentモデルの結果、全てのモデルは非常に高い精度を示し (AUC>0.9) 、全メッシュに対する生育適地メッシュの割合は、市民科学モデル及び統合モデルでは15.9%、調査・標本モデルでは14.9%であった。したがって市民科学データは人工地帯に偏る傾向があるが、調査・標本データに統合することで本種の予測モデルを改善する可能性が示唆された。


日本生態学会