| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PD-495  (Poster presentation)

雲取山のコメツガ林におけるニホンジカが倒木更新に及ぼす影響
The impact on regeneration on fallen trees of Tsuga diversifolia forest by Cervus nippon in Mt. Kumotori.

*唐津勇人(東京農工大・院・農), 星野義延(東京農工大・院・農), 岩崎浩美(東京都水道局), 千葉徹也(東京都水道局), 佐藤萌子(東京都水道局)
*Karatsu HAYATO(Tokyo Univ. of Agri. & Tech.), Yoshinobu HOSHINO(Tokyo Univ. of Agri. & Tech.), Hiromi IWASAKI(Tokyo Waterworks Bureau), Tetsuya CHIBA(Tokyo Waterworks Bureau), Moeko SATO(Tokyo Waterworks Bureau)

 奥多摩地域のニホンジカ個体数は1990年代後半より急激に増加し, 自然植生への影響が報告されるようになり, 2006年には東京都により, 雲取山の亜高山帯に成立するコメツガ林を囲うシカ柵が設置された. 日本の亜高山帯針葉樹林のササ優占型林床では, 実生の発生や稚樹の生育が古い倒木や根株の上に限られる傾向にある. したがって, 亜高山帯針葉樹林の森林更新を検討するためには, 倒木更新に着目することが重要と考えられるが, 倒木の腐朽度やコケ被度といった他の要因と比較し, シカ柵が倒木更新にどの程度影響を及ぼすのかを研究した例はない. そこで本研究では, 雲取山のコメツガ林を調査地とし, ササ優占・不在のスタンドにおいてシカ柵を含めた様々な環境要因と, 高木性樹種の更新状況との関係を明らかにすることを目的とする.
 ササ優占・不在の柵内外において倒木の腐朽度とコケ被度, 調査スタンド (100㎡) のササ高さと開空度を測定し, 倒木上の実生 (高さ (H) ≦10cm) と小稚樹 (10cm<H≦100cm) の種名と高さを記録した. また, 調査スタンド内の大稚樹 (1m<H≦7m) の種名と高さ, 調査エリア (225㎡) 内の成木 (7m<H) の種名とDBHを記録した.
 コメツガ, シラビソ, カバノキ属, その他の広葉樹の4つの樹種区分において, 環境要因 (ササ高さ, 腐朽度, 柵有無, コケ被度, 開空度) と成木の胸高断面積が実生・小稚樹・大稚樹に与える影響を解析した. 腐朽度とコケ被度がコメツガの実生・小稚樹本数に正の影響を与えており, コメツガの倒木更新に重要であることが分かった. またササ高さと開空度がコメツガに負の影響, カバノキ属に正の影響を与えていたことから, ササ優占地はカバノキ属の更新サイトとして機能すると考えられる. シカ柵は全ての樹種の大稚樹の生存に正の影響を与え, 更新には非常に重要であることが分かった. 一度ササ草原になると森林へと回復させるのは難しいため, 現在高木が残存しているササ優占地に柵を設置する必要があると考えられる.


日本生態学会