| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PA-093  (Poster presentation)

スギ人工林の下層木における展葉期と落葉期の葉中無機養分濃度の変動
Variations in mineral nutrients during leaf expansion and senescence of understory trees in a cedar plantation

*仲原祐香(島根大学院)
*Yuka NAKAHARA(Shimane Univ.)

 植物は生命維持のために多種の無機イオンを吸収し利用する。しかし,階層構造の発達した森林では下層植生は林冠木による被陰により光環境が制限される。とくに常緑樹林の下層植生は常に光環境が劣悪な中で林冠木との可溶性資源獲得のための競争にさらされる。このことから下層植生は可溶性資源に対する嗜好性に変化が生じ,また高効率の再利用過程を持つことが推測できる。  本研究では,常緑針葉樹であるスギの壮齢人工林の下層に生育する樹木の展葉期と落葉期における無機養分利用を明らかにするために,下層木の葉を4月から5月の春季および10月から翌年2月の秋冬季に採取し,葉の中の水抽出可能な無機成分濃度の変化を調査した。  島根大学三瓶演習林56年生スギ人工林で試料採取を行った。スギ人工林の下層に生育する樹木から落葉広葉樹10種,常緑広葉樹4種,常緑針葉樹1種の合計15種を選び実験に供した。葉寿命が複数年に及ぶ常緑樹は,当年生葉,2年生葉,3年生葉に分けて採取した。生葉抽出液中の溶存陽イオン濃度と陰イオン濃度をイオンクロマトグラフィーで測定した。また,乾燥後に全窒素濃度と全炭素濃度をNCアナライザで測定した。  全窒素濃度は落葉広葉樹に比べ常緑広葉樹で低く,C/N比も高い傾向にあった。また落葉広葉樹は葉の老化過程で全窒素濃度が低下し,黄葉時の窒素の回収率は最大60%に及んだ。緑葉中の無機態窒素濃度は落葉広葉樹葉で高く、常緑樹葉で低い値を示した。全カチオン当量と全アニオン当量は正の相関を示した。落葉広葉樹に比べ常緑樹の葉に含まれるカチオンとアニオンはともに濃度が低く,とくにアニオン濃度が低いため抽出液のカチオン/アニオン比は1を大きく超えた。常緑樹葉には,より多くの無機炭酸イオンや有機酸イオンが含まれる可能性が示唆された。イオン種別では,展葉期にK+やPO43-が高濃度で含まれるが,落葉期にはNa+やClが高濃度で含まれることが明らかになった。


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