| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PA-114  (Poster presentation)

マングローブ植物の葉と根の呼吸速度温度依存性
Temperature dependance of respiration in mangrove plants

*井上智美(国立環境研究所), 赤路康朗(国立環境研究所), 野口航(東京薬科大学)
*Tomomi INOUE(NIES), Yasuaki AKAJI(NIES), Ko NOGUCHI(TUPLS)

  マングローブ植物は熱帯・亜熱帯地域の干潟に生育する木本植物である。世界には100種位のマングローブ植物が確認されているが、よく見ると樹種ごとに分布域が異なっている。このことから、一言にマングローブ植物といっても、生育環境に対する生理生態特性は異なっていることが窺える。しかし、個々のマングローブ樹種の生理生態特性に関する研究は、塩分耐性に関するものが報告されているが、気温や降水に関する応答については、あまり進められていない。
  本研究では、アジア・太平洋地域によくみられ、気温や降水量の環境分布レンジが異なるヒルギ科2種、オヒルギ(Bruguiera gymnorrhiza)とヤエヤマヒルギ(Rhizophora stylosa)について、気温(15~30℃)に対する生長・形態と代謝機能の応答を調べた。
 2種とも、気温の上昇にともなって相対生長速度(RGR)が上昇したが、ヤエヤマヒルギはオヒルギに比べると全体的に低く、15℃ではマイナスとなった。この種差は、葉面積あたりの同化速度(NAR)ではなく、個体重量あたりの葉面積(LAR)の差によっていた。ヤエヤマヒルギはオヒルギに比べて、葉の重量/面積比LMAが大きく、LARを大きくしにくい形態をしていた。一方で、気温上昇によるRGRの上昇の主要因はNARの上昇であることが分かった。また、2種の葉と根のO2呼吸速度が、気温の上昇にともなって上昇していたことから、同化速度の増加に伴うATP需要にO2呼吸が応答していることが明らかとなった。葉と根の維持呼吸には種差がなかったが、葉の構成呼吸係数と根の吸収呼吸係数には種差が見られた。葉の構成呼吸係数はオヒルギで高く、根の吸収呼吸係数はヤエヤマヒルギで高かった。このような生理特性の種差は、野外における分布環境レンジや、環境変動に対する応答の種差に反映されていると考えられる。


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