| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PA-116  (Poster presentation)

光化学系I の阻害とその抑制機構 【B】
Photoinhibition of Photosystem I: Mechanisms of the inhibition and suppression 【B】

*寺島一郎, 河野優(東京大学)
*Ichiro TERASHIMA, Masaru KONO(The University of Tokyo)

植物の光化学系I(PSI)は、PSIIに比べて丈夫であると考えられてきた。「光阻害」といえば、PSIIの光阻害を意味していたほどである。われわれは1994年に冷温(凍結をともなわない低温)感受性のキュウリの葉に、5〜10˚Cにおいて光を照射すると、PSIIはほとんど傷まないのにPSIが傷むことを見出した。これは、1)H+-ATP合成酵素のCF1部分がチラコイド膜から遊離することよってATPが不足し、カルビンベンソン回路が停止する。2)プロトンが漏るのでチラコイド膜内腔のpHが低下しない。3)PSII アンテナにおいて過剰な光エネルギーの熱散逸(非光化学消光)やシトクロム b/f複合体の光合成調節(電子伝達速度の低下)が起こらない。4) PSIIからかなりの電子がPSIに流れ込むがカルビンベンソン回路が停止しているため、電子がNADP+ ではなくO2に流れO2が生成する。5)低温のために活性酸素消去系活性が低下し、活性酸素が蓄積してPSIを阻害する、という複雑な機構による。2014年、われわれは、穏やかな強度の赤色光の変動光処理を1時間程度続けると、PSIが損傷を受けることを発見した。これは、弱光相後の強光相で、3)の理由のためにPSIに電子が流れ込むためである。このPSIの光阻害は、自然光に含まれる程度の遠赤光の存在下では起こらない。遠赤色光を足すことにより、PSIが駆動されて反応中心が酸化型となり、安全に過剰エネルギーを熱散逸するためである。
 強度の耐陰性植物であるクワズイモを弱光下で栽培すると、遠赤色光非存在下でもPSIが変動光によって傷みにくくなる。シトクロム b/f複合体の量が極端に減少しPSIへの電子流入量が低下すること、PSIIアンテナからPSIアンテナへのクロロフィル励起状態のスピルオーバーが起こりPSI反応中心が酸化型に保たれやすくなるためである。


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