| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PB-175  (Poster presentation)

植物標本とマルチシーケンス技術が紐解く北方樹種グイマツの系統分化と利用
Phylogenetic divergence of Larix gmelinii var. japonica and its forestry applications, using botanical specimens and multi-sequencing techniques

*石塚航(道総研・林業試), 松尾歩(東北大・農), 陶山佳久(東北大・農), 新田紀敏(道総研・林業試), 田畑あずさ(北海道大), 小野清美(北海道大), 原登志彦(北海道大)
*Wataru ISHIZUKA(HRO), Ayumi MATSUO(Tohoku Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.), Noritoshi NITTA(HRO), Azusa TABATA(Hokkaido Univ.), Kiyomi ONO(Hokkaido Univ.), Toshihiko HARA(Hokkaido Univ.)

北方系針葉樹カラマツ属の1種群Larix gmelinii complex(和名;ダフリアカラマツ、チョウセンカラマツ、グイマツ、カムチャッカカラマツ)は広域に分布し、ユーラシア大陸の極東域からカムチャッカ半島、および、朝鮮半島、サハリン、千島列島(色丹島、択捉島)に生育している。本種群が現在は自生していない北海道では、その適応性に基づいて主にグイマツを遺伝資源として導入して林業利用してきた経緯があるが、来歴の多くは不確かである。そのルーツを紐解くには、本種群の遺伝的系統の解明が必須である。そこで本研究では、確かな生育地情報が付される植物標本に着目し、現生個体と合わせた遺伝解析によって、本種群のうちとくにグイマツの系統分化の実態を探ることとした。
材料はグイマツを主体としたL. gmelinii種群とし、北海道大学博物館所蔵の植物標本26点(採集年;1917~2012年)と現生個体61個体を選定した。遺伝解析の対象として、これまでの研究で明らかにした系統グループを検出できるよう、18箇所(葉緑体;15、ミトコンドリア;3)のDNA変異を選定した。これら多検体かつ複数箇所のDNA変異情報を効率的に取得するため、変異を有する領域の配列情報をNGSで一度に解読するマルチシーケンス技術を活用し、各領域で遺伝子型を決定した。解析に際しては、標本個体への適用を鑑み、短い増幅長(80~158bp)のマーカーを作成した。本解析での遺伝子型検出率は高く、葉緑体領域では現生個体で99.9%、標本でも98.4%あり、100年前の標本も遺伝子型を決定できた。遺伝子型から推定した6系統グループと生育地とを対応させると、祖先的な大陸分布型のグループと、そこから派生した島分布型のグループがあり、1つは千島列島由来のグイマツに特異的にみられた。サハリン由来のグイマツは多様で5系統グループが検出されたが、北から南にかけて大陸型から島分布型へと系統の構成が変わっていた。発表では、北海道のグイマツのルーツと地域性にも言及する。


日本生態学会