| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PB-195  (Poster presentation)

暖温帯のヒノキ林におけるアーバスキュラー菌根菌の菌糸分解:季節と菌糸直径の影響
Decomposition of arbuscular mycorrhizal fungal hyphae in a warm-temperate hinoki cypress forest: Effects of season and hyphal diameter

*SCHAEFERHolger, 檀浦正子, 安宅未央子(京都大学)
*Holger SCHAEFER, Masako DANNOURA, Mioko ATAKA(Kyoto University)

温帯林の樹種の大半が、光合成によって吸収した炭素をアーバスキュラー菌根菌・外生菌根菌に提供する代わりに、菌根菌から土壌無機栄養素の提供を受ける。樹木が菌根菌に供給する炭素が森林土壌の炭素貯留に加わるか、分解によってすぐに放出されるかを推定するためには、菌根菌の生産・枯死・分解の一連のプロセスを明らかにするのが不可欠である。
近年、炭素フローのモデルを用いて、森林土壌に設置したメッシュバッグに入り込む菌根菌糸の生産・枯死・分解が推定された。しかし、フィールドにおける菌根菌糸の分解とそれに対する菌糸形態・季節変動の影響が十分に研究されていないため、モデルで仮定された菌糸分解動態が事実かどうか分からない。本研究では、暖温帯のヒノキ林で集めたアーバスキュラー菌根菌糸をメッシュバッグに入れ、メッシュバッグ設置後0.5~8ヶ月の菌糸分解量を測定し、指数関数形減少モデルを用いて菌糸の分解率・半減期を推定し、菌糸直径と季節の影響を調べた。
その結果、分解の進行とともに、菌糸の分解率は2.5 month−1から0.1 month−1に低下し、半減期は10日から7ヶ月に伸びた。また、細い菌糸(分解率≤1.6 month−1; 半減期≥0.4 months)と太い菌糸(分解率≤3.1 month−1; 半減期≥0.2 months)の間や、春・夏の設置(分解率≤2.7 month−1; 半減期≥0.3 months)と秋・冬の設置(分解率≤1.1 month−1; 半減期≥0.6 months)の間に有意な差があった。
以上より、分解段階や菌糸直径・季節によって、菌根菌糸の分解が大きく変化することが示された。菌根菌の生産・枯死・分解のプロセスを推定するため、炭素フローのモデルにおいて菌糸分解に対するこれらの影響を考慮するのが重要であると考えられる。


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