| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-252  (Poster presentation)

草原周辺の土地利用の違いは、異なる送粉者組成を生み出すか?
Does the difference in the surrounding land use affect pollinator composition in grassland?

*辻本翔平(東邦大学), 平塚優輝(東邦大学), 野田顕(東邦大学), 西廣淳(国立環境研)
*SHOHEI G TSUJIMOTO(Toho Univ.), Yuki HIRATSUKA(Toho Univ.), Akira NODA(Toho Univ.), Jun NISHIHIRO(NIES)

日本の草原は、都市開発や管理の放棄によって急速に減少しており、多くの種が絶滅危惧となっている。千葉県北部の台地上には希少な草原性植物が多く生育する草原が点在している。この地域の地理的な特色として、台地上部には草原、台地の縁には小規模な谷からなる湿地、その間には斜面林、がモザイク状に混在していることが挙げられる。植物相を維持する上で欠かせないのが送粉者の存在であり、草原で活動する送粉者は周囲の様々な環境に由来することが期待される。しかし近年の都市開発によってそのモザイク性が消失しつつあり、周辺環境とハビタットとの関係を明らかにすることが喫緊の課題である。
 2019年6-11月に、千葉県白井市内の22か所の草地で調査を行った。それぞれの草地の送粉者組成を把握するため、全調査地に対して2人で15分間の送粉者観察を2週間ごとに行った(計10回)。現地で同定できない分類群は全て捕獲し、研究室内で同定した。GISを使用し、第7回自然環境保全基礎調査(環境省)における植生図に基づいて各調査草地周辺の単位面積当たりの土地利用を記録した。その土地利用区分を「草地・樹林・宅地・湿地・農地」にあてはめ、草原ごとに周辺環境の土地利用割合を集計した。各送粉者分類群を観察された個体数に応じて種や属、科の分類に合併し、その個体数と周辺環境との関係を解析した。
 送粉者は全体で2329個体記録され、膜翅目が31.6%、鱗翅目が33.3%、双翅目が30.9%、鞘翅目が4.1%だった。周辺環境と個体数の解析から、周辺の樹林、宅地、湿地の面積率と正の相関にある分類群がそれぞれ確認され、中でも樹林と正の関係をもつ分類群が多かった。以上の結果は、送粉者相は周辺環境の組成から影響を受け、多様な送粉者相を維持するためには周辺環境の多様さ(特に樹林)を維持する必要があると示したといえる。


日本生態学会