| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-305  (Poster presentation)

高山帯・亜高山帯における止水棲水生昆虫類の群集構造の特徴と池沼間の種多様性比較
Characteristics of community structure of aquatic insects in alpine and subalpine ponds and comparison of species diversity between them

*井上恵輔, 東城幸治(信州大学)
*Keisuke INOUE, Koji TOJO(Shinshu University)

山岳域、特に高山帯は急峻な地形が多く止水環境に乏しいものの、氷河地形や火口、二重稜線間の凹地などには池沼が点在し、それらの成因により池沼環境は様々である。環境の違いは生物相にも直結するため、成因の多様性は山岳域の種多様性創出に寄与すると考えられるが、本邦における高山帯池沼の生物相に関する知見は極めて乏しい。本研究では、多様な成因の池沼が存在する北アルプス(上高地-槍・穂高地域)の高山帯や亜高山帯を中心に、その実態に迫ることを目的とした調査研究を実施した。まず、北アルプス内に設定した23の対象池沼それぞれの水生昆虫相をクラスター解析によりグルーピングした。この結果、北アルプス内の池沼は4群に区分され、池沼環境(池周囲の草本量、地底質:池底を覆う砂泥量、標高)の深い関与が示唆された。また、立地的には互いに近距離である池沼間においても成因による環境の相違がみられる場合には、それらの群集構造が大きく異なる事例もみられた。このような高山帯や亜高山帯の孤立・散在的な池沼環境に生息するオンダケトビケラやアミメトビケラなどの種群に注目し、その遺伝子解析を実施した。これらのうちオンダケトビケラ類に関しては、日本産全種の分布域を網羅する地理的遺伝構造解析を実施し、この種群における槍-穂高地域の系統進化・生物地理学的な位置づけを議論することができた。オンダケトビケラ類では地理的距離と遺伝的距離間の正の相関関係が強く(ただし、相関の強度には種間差がある)、山域ごとの遺伝系統の分化が顕著であることから日本の山岳形成史を強く反映していることが示唆された。以上の結果から、高山帯・亜高山帯の池沼の群集・集団構造には池沼の成因や周辺植生やその結果としての地底質などの影響が、また遺伝構造には山岳形成史や山塊の地理的配置の影響が大きいことが明らかとなった。


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