| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-355  (Poster presentation)

ウエブ配信を用いたバードウォッチング手法による絶滅危惧種保全への貢献可能性
A web-based birdwatching method: The possibility of contribution to endangered species conservation.

*早矢仕有子(北海学園大学), 愛甲哲也(北海道大学)
*Yuko HAYASHI(Hokkai-Gakuen Univ.), Tetsuya AIKOH(Hokkaido Univ.)

絶滅危惧種シマフクロウの生息地を人の妨害から守るため、国の保護施策の中では一貫して生息地情報は非公開とされてきた。しかし、インターネットの普及により情報拡散の速度と範囲が増大した結果、一部の生息地では営巣地や採餌場所への写真撮影目的の入り込みが頻繁となり、侵入対策が急務になるとともに、隠せないことを前提にした情報公開手法の構築も求められている。そこで、直接生息地に行かず遠くから見守ることで気持ちが満たされるような「見せ方」を確立するために、シマフクロウの巣内画像をインターネットでライブ配信し、保全に貢献する効果と悪影響の検出を試みた。NPO法人バードリサーチ、公益財団法人日本野鳥の会の協力を得て、2017年と2018年に閲覧希望者を募り、シマフクロウの巣内育雛期間(4~6月)に合計244名に画像を配信し、ヒナの巣立ち後にwebアンケート調査を実施し、187名から回答を得た。配信画像閲覧によるシマフクロウへの意識変化を得点化したクラスター分析の結果から、1)シマフクロウへの愛着、知識、保護への共感が増大した一方で野生個体を見に(写真撮影に)行きたい欲求は高まらないグループ(協力型:72人)、2)愛着、知識、保護への共感、および野生個体を見に(写真撮影に)行きたい気持ちも増したグループ(積極型:61人)、3)意識に変化が無いグループ(消極型:54人)に分類できた。したがって、本手法は「協力型」市民を増やすことでシマフクロウ保全に貢献できることが示された。しかし、同時に「積極型」市民も増やすことから、シマフクロウへの関心を高める正の効果と生息地への入り込みを増やす危険性を併せ持つ可能性も示唆された。野生個体を見に行きたい欲求を遠くから「見守る」ことで得られる満足感に転化することが、不特定多数の市民への完全公開には必要かもしれない。(本研究は三井物産環境基金および旭硝子財団の助成を受けた。)


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